うそつき

1/1
前へ
/1ページ
次へ

うそつき

「うそつき!おかあさんのうそつき!」  妹の柚子音が部屋に入ってくるなり叫び散らす。 小学3年生になった妹は、毎日僕の部屋に来ては色々散らかして帰っていく。 「お兄ちゃん!おかあさんね、うそついたの!今日、雨降るから傘持ってってねっていって、わたし傘持ってったら、みんな持ってなかったの!雨も降らなかったの!」 「昨日もね、ピーマン食べたら大きくなるってがんばって食べたのに、全然大きくならなかった!」 「一昨日も、いい子にしてたらお兄ちゃんとお話できるって言ってたのに、お兄ちゃんちっとも起きない…。」 「お兄ちゃん……おきてよ……。」  僕は3年前、妹の誕生日プレゼントを買いに出掛けた。相手の車の不注意で、バイクに乗っていた僕は横から跳ねられ、脳に大きなダメージを負い、いつ目が覚めるか分からない状態にある。  すぐに帰ってくると言ったのは僕で、いい子にしててねと言ったのも僕。妹は何も悪いことをしていないのに、毎日僕の部屋に来て、泣いて、少し寝てご飯を食べに部屋を出る。  お母さんは嘘をついてるんじゃなくて、柚子音のことが心配なんだよ。僕も心配してるよ、毎日毎日、頭を撫でてあげれたらって思ってる。何も動かせなくて眠っているけど、柚子音の声はちゃんと聞こえてるよ。  …すぐに帰って来れなくて、嘘ついて、ごめんね、「ゆずね。」 「……え、っ…、おにい…ちゃん……!」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加