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空あります
「ねえ。太一」
「あ」
「太一ってば」
「何?」
「あのさ。「空あります」の話したっけ?」
「・・」
「「空あります」「そらあります」の話」
「聞いてない」
「あのさ。ほら、団地のそばに駐車場」
「それ。聞かないと駄目?」
「聞きたくないの?」
「お母さん。またホラ話でしょ」
「違うよ。ホラ話なんかしたことない」
「それがホラだ」
「あのね。団地のそばの駐車場」
「聞くって言ってないよ、俺。宿題やってんの、見えない?」
「そうだね。宿題は大事。でね、団地のそばの駐車場」
「もう」
俺は中二。
学校から帰って、リビングで宿題をやっている。
母は今日は図書館のパートが休みだったらしい。口が寂しいのか、台所に立ったまま俺に話し続けているのだ。
「話聞くけどさ。お母さん」
「あ。さすが、太一。我が家の親思いの一人息子」
「あのね」
「何?」
「それ、駐車場でしょ。「空あります」ね。そら、じゃなくて、あき、って読むんだよ。「あきあります」」
「そうなの?」
「わかって言ってるんだろうけどね」
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