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緊急
母は45歳。
短い髪にぶっとい黒縁眼鏡。
下痢したときみたいな色のタイパンツを愛用している。外出時も家にいる時も兼用。大体いつもそれ。
靴下は名画の柄で、日によって、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンなどなど。印象派が好きなようだ。ちなみに今は、精子のような形の男の人が「あら、まあ」ってな感じで頬に手を当て、口を開けている。ムンクの「叫び」。
「で。何?聞くよ。「あきあります」」
「「そらあります」ね。ちょっと待って。暑くなってきた。台所立ってるとね、暑くなるのよ。わかる?」
そう言うと、母は、墨書で大きく「人器」とプリントされた白いトレーナーを脱いだ。中は、真っ赤なTシャツ。白く「緊急」という字が染め抜かれている。どこで見つけてきたんだ、こんなシャツ。
「出た。緊急」
「そう。お母さんはいつでも緊急」
「人器って、どういう意味?」
「人は誰でも人器」
「はいはい。で?何?空あります」
「あ。うん。そのね、団地のそばの駐車場、「空あります」って旗が出てるでしょ。私、前から気になってたのね」
「はい」
「そうしたらね。今日、買い物の帰り、たまたま会えたの、その駐車場の持主のおじいさん。箒持って掃除してた」
「うん」
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