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智恵子抄
「お母さんさ、おじいさんに話しかけてみたんだよ」
「なんて?「そらありますか?」って?」
「うん」
「へ?まじ?」
「そしたら、おじいさん。あるじゃないですか、ほらって、上を指さして」
「ああ」
「ここには、ホントの空があります」
「うん」
「「智恵子抄」は御存じですか?って。知ってる?太一」
「ああ。「東京には空がない」」
「そう。それ。流石、中二。優秀。国語の成績は確か」
「2」
「ナンバー2」
「違う。下の中」
「そっか。私の遺伝子、強靭。お父さんの遺伝子を継いでいたらそうはならなかったよ。あはははは」
「不幸だよ。何言ってんの。で?」
「東京には空がない、っておじいさん」
「はい」
「でも、ここにはあるんです。そう、この駐車場の上には空がある」
「どこにでもあるでしょ」
「いや。駐車場の上の空は違うんだ、特別なんだって言ってた」
「おじいさん、大丈夫?っていうか、お母さんの作り話だろうけど。で?」
「借りますか?って、言われた」
「うん」
「月極8000円」
「うち、庭に駐車場あるじゃん」
「だよね」
「でさ。この話、どこまでホント?どこからホラ?」
「え?全部ホント」
ったく。
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