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原付バイク
母のこんな話に俺は毎日付き合っているのだ。
母は、フライパンで青椒肉絲を炒め始めた。
俺は、中太りの体形も、顔も、国語の成績も、運動神経が鈍いのも母に似てしまった。年中ホラばかり話しているのも似てくるのだろうか。
「そういえばさあ、太一。あちっ」
ピーマンの残った水分がフライパンの上で弾けているらしい。
「あのさあ。原付の話。あちっ」
ピーマンを炒める音でよく聞こえない。
「何?何よ」
「あのね。原付バイクの話したっけ」
「聞いてない」
「昨日、図書館のパートの帰りね」
「聞くとは言ってない。宿題する」
「しながら聞いて。大事な話」
「ったく。絶対大事な話じゃないよね」
「昨日、図書館の帰りさ、スクーター乗ろうとしたんだよ」
「ああ」
「そしたらさ、スクーターが、今日は乗せたくないって言うんだよ。もういやだって」
「は?」
「自由が欲しい。こんな縛られた毎日はいやだ。俺はお母さんの操り人形じゃない」
「操り人形ではない。50㏄バイクだ」
「何か気に入らないことしたかなあ、お母さん」
「知らねえよ」
「あ」
「何?」
「オイル交換してない」
「してください」
「そうだね。明日にでもバイク屋に持って行こう。でね。バイクは私を乗せたくないって言ってるけど、私は乗らないと家に帰れない」
「そうだね」
「それでさ、バイクに乗って、鍵差し込んだら、ばばばって。もう、ばばばばって、私を振り落としてね、わき目も振らず、そのまま、ずばーんって、走って行っちゃって」
「それ。俺、まじめに聞かないといけないの?」
「勿論」
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