一本の花と願い

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 ある所に、一人の少年が居ました。少年の名はカール。カールは真面目で正直者の、村でも評判の少年でした。  父親は出稼ぎに、母親は小さい頃に死んでしまっていた為、いつも一人で家の仕事をしていました。  村は小さい村でしたが、優しい人達ばかりでした。家で独りぼっちのカールの事を、皆いつも気に掛けてくれていました。大人達は小まめに様子を見に来てくれるし、子供達は一緒に遊んでくれました。カールは父親がいなくても、寂しくなく、とても幸せでした。  しかし、一つだけ心の中にぽっかりと、空いた穴があります。それは死んだ母親の存在です。カールがまだ幼かった事から、母親の温もりと言う記憶が、全くありませんでした。カールはいつも思いました。母親の温もりとは、どんな物だろうかと。  ある日の事です。いつもの様に、カールは家の横の畑で、仕事をしていました。すると、「すみません・・・。」と、よぼよぼの老婆に声を掛けられます。老婆は真っ黒なマントを羽織り、しわしわの手を伸ばしていました。 「ここ何日も食べていません。どうか何か食べる物を下さい。」  老婆がそう言うと、カールは驚きました。 「それは大変だ。待っていて下さい。家にパンがあります。」  カールは家へとパンを取に行くと、老婆へと渡しました。老婆はカールから受け取ったパンを、必死にがつがつと食べます。 「おばあさん、これも飲んで。」  カールは水の入ったコップを、老婆へと手渡しました。老婆は水を、一気に飲み干します。 「はぁ・・・生き返ったよ。どうもありがとう、優しい坊や。」 「いえ、とんでもない。困っている人を助けるのは、当然の事です。」  カールは笑顔で言いました。 「まぁ、なんていい子なんだ。」  笑顔のカールを見て、老婆は驚きました。 「そうだ、お礼にいい物をあげよう。」  そう言うと、老婆は袖の中から、巾着袋を取り出します。そして巾着袋の中から、一つ、種を取り出しました。 「この種をあげよう。この種の花を咲かせた時、一つだけ、願いが叶うと言われている、魔法の種だよ。坊や、願いはあるかい?」 「願い・・・。」  カールは母親の事を、思い浮かべました。 「あるんだね。さぁ、受け取りなさい。」  カールは老婆から、魔法の種を受け取りました。本当に、花が咲いたら願いが叶うのだろうか?疑問に思いながらも、どこか期待もしていました。 「ありがとう、おばあさん‼」  きっと神様からのプレゼントなんだ、そう思い、カールは喜びました。老婆もうれ嬉しそうに微笑んでいます。  すると、老婆は人差し指を立て「そうそう・・・。」と話し始めました。 「この花はね、水では育たないんだ。人間の血を吸って、育つんだよ。」 「人間の・・・血・・・?」  カールは老婆の言葉に、ぞっとします。 「坊やは、誰の血を注ぐんだい?自分の血かな?それとも、他の誰かの血かな?」  どちらの血?その選択に、カールは思わず生唾を飲み込みます。当然、他人の血なんて、注げる筈がない。 「僕は・・・僕は自分の血で・・・。」  カールは自信なさ気に、小声で呟きました。 「まぁ、好きにしなさい。」  そう言って、老婆は不気味に笑いながら、去って行きます。カールは掌の種を、じっと見つめました。 「もしも・・・もしも本当に願い事が叶うなら・・・。」  その後、村には静けさと共に、一本の見た事も無い華を咲かせました。
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