7人が本棚に入れています
本棚に追加
2
洋くんとの同棲生活は、思い描いていたものと違っていた。
好きな人と暮らすんだから、もっと甘〜いものを想像していたけれど……違っていたみたい。
「え?何? 一緒に寝てないの?」
「うん……別に寝てる」
「へーなんか「私たち寝室は別です」って言ってる夫婦みたいだね」
「うん……そうかも。私、そんなに魅力ないかなぁ?」
「えーそんな事ないと思うけど」
私は同僚の沙耶香ちゃんに愚痴っていた。
「昼間からさ、お酒飲んでるんだよ?夜中も飲んでてさー布団にも入らず、そのまま床でゴロリ。髭も生やしっぱなしなの。だらし無い感が満載なんだよね」
「へーそんな人のどこが好きなの?」
「うっ……」
筋肉?顔?性格?何だろう。
自分でもよく分からない。毎日、仕事をしていても気付けば考えてしまっている。
洋くん、仕事頑張ってるかな?
洋くん、今何してるんだろう? って。
病気だな、私。
私はエコバッグを提げて、家路を急いでいた。明日、洋くんと休みが合ったから一緒に代官山に行く事にした。ショッピング兼ねて近くの公園に鳩がいるから見に行く。だから、明日用のお弁当の材料をぶら提げているのだ。
アパートの階段を上がると、洋くんと隣人の花岡さんの姿を見つけた。
何か、喋っている。
花岡さんが洋くんの両手を握りしめて、飛び跳ねながら喜んでいる。
何、勝手に触ってるのよ。私の洋くんなのに。
あと、飛び跳ねないで。胸が揺れるから。
ほらっ!洋くんの目線がまた……
プツン!と何かが切れる音が頭の中に響く。
「あ、詩さん!おか……」
「鼻の下、伸びてるよ!!」
私は、洋くんの後ろを通り過ぎて自室のドアを開けて、ガチャリと鍵をかった。
「う、詩さん!開けて!!」
ドン!ドン!
「天野さん、かわいそう!うちに来ます?」
おっと、それはマズイ。
私はドアを開け、洋くんの腕を引っ張って中へ入れ込んだ。
「詩さん!何怒ってるの?」
「別に。花岡さん、可愛いし胸も大きいから鼻の下も伸びますよね?」
さっきから可愛くない事ばかり言ってる。嫌だな、こんな自分。もう、泣きたい。
「え?どうしたの?」
分かんない? 私、嫉妬してるんだよ。無言で冷蔵庫からお肉を出し、麺棒を思いっきり振り上げた。このイライラを発散してやる!
その時、腕を掴まれ、瞬く間に温かい胸板に包まれた。
気持ちとは裏腹に、胸がキュンと音を立てる。
「離して」
「許してくれるまで、離さない」
「洋くんのバカ……あの子と仲良くしないで欲しい。デレデレした洋くん、見たくないよ」
もう顔は、涙でぐしゃぐしゃ。洋くんの白いTシャツに水色の染みが付いていく。
「ごめん、詩さん。僕には詩さんしか居ないよ。だから信じて欲しい」
「うん……分かったよ」
彼を信じよう。
洋くんの髭がおでこに当たる。私たちは抱き締め合いながら、瞼を閉じて眠りに就いた。
一枚の布団の中で。
最初のコメントを投稿しよう!