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洋くんとの同棲生活は、思い描いていたものと違っていた。 好きな人と暮らすんだから、もっと甘〜いものを想像していたけれど……違っていたみたい。 「え?何? 一緒に寝てないの?」 「うん……別に寝てる」 「へーなんか「私たち寝室は別です」って言ってる夫婦みたいだね」 「うん……そうかも。私、そんなに魅力ないかなぁ?」 「えーそんな事ないと思うけど」 私は同僚の沙耶香ちゃんに愚痴っていた。 「昼間からさ、お酒飲んでるんだよ?夜中も飲んでてさー布団にも入らず、そのまま床でゴロリ。髭も生やしっぱなしなの。だらし無い感が満載なんだよね」 「へーそんな人のどこが好きなの?」 「うっ……」 筋肉?顔?性格?何だろう。 自分でもよく分からない。毎日、仕事をしていても気付けば考えてしまっている。 洋くん、仕事頑張ってるかな? 洋くん、今何してるんだろう? って。 病気だな、私。 私はエコバッグを提げて、家路を急いでいた。明日、洋くんと休みが合ったから一緒に代官山に行く事にした。ショッピング兼ねて近くの公園に鳩がいるから見に行く。だから、明日用のお弁当の材料をぶら提げているのだ。 アパートの階段を上がると、洋くんと隣人の花岡さんの姿を見つけた。 何か、喋っている。 花岡さんが洋くんの両手を握りしめて、飛び跳ねながら喜んでいる。 何、勝手に触ってるのよ。私の洋くんなのに。 あと、飛び跳ねないで。胸が揺れるから。 ほらっ!洋くんの目線がまた…… プツン!と何かが切れる音が頭の中に響く。 「あ、詩さん!おか……」 「鼻の下、伸びてるよ!!」 私は、洋くんの後ろを通り過ぎて自室のドアを開けて、ガチャリと鍵をかった。 「う、詩さん!開けて!!」 ドン!ドン! 「天野さん、かわいそう!うちに来ます?」 おっと、それはマズイ。 私はドアを開け、洋くんの腕を引っ張って中へ入れ込んだ。 「詩さん!何怒ってるの?」 「別に。花岡さん、可愛いし胸も大きいから鼻の下も伸びますよね?」 さっきから可愛くない事ばかり言ってる。嫌だな、こんな自分。もう、泣きたい。 「え?どうしたの?」 分かんない? 私、嫉妬してるんだよ。無言で冷蔵庫からお肉を出し、麺棒を思いっきり振り上げた。このイライラを発散してやる! その時、腕を掴まれ、瞬く間に温かい胸板に包まれた。 気持ちとは裏腹に、胸がキュンと音を立てる。   「離して」   「許してくれるまで、離さない」 「洋くんのバカ……あの子と仲良くしないで欲しい。デレデレした洋くん、見たくないよ」 もう顔は、涙でぐしゃぐしゃ。洋くんの白いTシャツに水色の染みが付いていく。 「ごめん、詩さん。僕には詩さんしか居ないよ。だから信じて欲しい」 「うん……分かったよ」 彼を信じよう。 洋くんの髭がおでこに当たる。私たちは抱き締め合いながら、瞼を閉じて眠りに就いた。 一枚の布団の中で。
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