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強い日差しとタバコの匂いで目を覚ました。 規則正しい寝息が聞こえる。至近距離には、洋くんの寝顔。 あれっ?どうして、一緒に寝てるんだっけ? 頭をフル回転させ、記憶を巻き戻す。 〝私も一緒に布団で寝ていい?〟 カァッと顔が熱くなった。 やだ!私、何であんな事!恥ずかしい! 立ち上がり、こっそり布団を出て洗面所で顔をバシャバシャ洗った。 そして、冷蔵庫を開けて今日のお弁当を作り始めた。あの後の記憶がない……疲れていたのか、知らない内に深い眠りに就いていた気がするけど。卵焼きをぐるぐるしながら、記憶を巡らす。キスをしたのは覚えている。あー、思い出せない! 「おはよー詩さん」 「ひゃっ!あ、おはよ、洋くん」 「もうすぐ朝ごはん出来るから、先に顔洗ってきて」 「うん」 「いただきます」 「いただきます」 洋くん普通にしてる。きっと、何にもなかったんだよね。きっと…… 「気持ち良かった」 「へ?」 持っていた茶碗を落としそうになった。 「詩さん、抱き枕みたいで温かくて心地良かった」 「え?あ、そ、そう?良かった〜」 び、びっくりした……心臓がばくばくする。 はぁ、そう言う事ね。そっか。 「お弁当、もうすぐ出来るから髭剃ってきてね。さぁ、代官山にお出かけするよ」 「うん」 アパートから駅までは徒歩3分。 洋くんがお弁当を持ってくれて、手を繋ぎながら歩き出した。久しぶりのデートだ。右隣の洋くんは、前髪が目を隠しそうなぐらい長い。また、切ってあげなきゃな。 代官山はオシャレな街だった。彼の服を選んだり、お洒落なカフェに入ったり、私も久々のショッピングを楽しんだ。公園に着くと、ベンチに座ってお弁当を広げた。  卵焼きに唐揚げ、昨日の厚揚げの煮物、稲荷など。洋くんは美味しそうに、口いっぱいに頬張っている。 「詩さん!鳩だよ、見て!」 「あ、本当だ!首の色、みんなエメラルドグリーンだね」 鳩なんて久しぶりに見た気がする。人に慣れているからか、近付いても逃げ出さない。肩に乗せている人もいる。電線に鳩がたくさん止まっていたが、みんな同じ方向を見ていた。 「鳩ってみんな同じ方向を見ているんです。知ってました?」 「知らなかった。どうして?」 「逆風を浴びてるんです」 「逆風?」 「毛並みが乱れない様にしてるんです。すごいですよね。人間だと逆風なんて浴びたくないのに」 「ふぅ〜ん」 同じ方向を見ている鳩たちを見つめた。普通、人間だったら嫌な事から逃げたいはず。私もそうだ。踏み出したい事があるのに、洋くんには言えないでいる。それはきっと、彼が好きで離れたくないからだ。 いつ言おうか、どうしよう……。 「そろそろ行きましょう」 「うん」 差し出された手のひらに手を伸ばす。 やっぱり、離れるなんて無理。この先もずっと、洋くんと一緒に居たいから。 彼は私との将来をどう思っているのだろうか。 私はあの事が言えないまま、オレンジ色の空を背に歩き出した。
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