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「離して!」 何この男、怖い!痛い、痛い……助けて。助けて、洋くん! 「詩さんを離して下さい」 この声…… 洋くんが助けに来てくれた! 男の腕を掴んで、今まで見た事がない怖い顔をしている。涙が溢れる。これで何度目だろうか、彼に助けてもらうのは。勝手に出て行って、また迷惑をかけて……何してるんだろう。 「痛え、わかったよ」 そう言って、男は帰って行った。 「詩さん。すいません。僕が手紙なんか置いていて。僕は詩さんが好きです。あの手紙は捨てるタイミングというか…」 好きって言ってくれるのは嬉しいのに……何だろう。自分が情けなくて、醜くて嫌になる。私は思わず、洋くんにしがみついた。 「洋くん、いつもありがとう。ごめんなさい……」 迷惑かける自分が嫌いだ。涙が止まらない。 「部屋に帰りましょう」 洋くんの太い腕が、肩に回ってギュッと抱き寄せられた。ゆっくり合わせてくれる歩幅。彼の優しさにずっと甘えていたいのに。自分がもっと、もっと、嫌いになる。 部屋に帰ってくると、洋くんがタオルで頬を拭ってくれた。そして、陽だまりの様なぬくもりで包み込んでくれた。 「詩さんが本当に大切だから、手を出さなかったんです。本当に大好きな人だから。でも……」 私は顔を上げて洋くんの顔を見つめた。 「詩さんを……抱いてもいいですか?」 「うん、いいよ……」 あったかい。 洋くんの体温。 こんなに温かくて こんなに優しかったんだ。 私を呼ぶ声が聞こえる。 洋くん、大好きだよ。 いつも嫉妬ばかりしてごめんなさい。 こんな嫌な自分、きっといつか、洋くんに嫌われる。 嫌われる前に居なくなろう。 この幸せな夜が、幸せな時間が、溶けてなくなったら…… 朝が来たら、さよならしよう。 カーテンから覗く夏の朝日。 大好きな人の髪を撫でる。たくさん伸びた髪。切ってあげられなかったな。 荷物は送ってもらえばいい。ごめんね、いつも自分勝手ばっかして。洋くんと一緒に暮らせて幸せだったよ。今までの人生の中で、1番ってぐらい幸せに満たされた時間だったよ。 ありがとう。 私はここを出ていく。 布団を剥いでベッドから出ようとした時、バッと腕を掴まれた。 「洋くん?」 「詩さん、どこ行くの?」 「ここを出ていくの。ごめんね……」 「僕も大阪に行ってもいい?」 「……え?」 「詩さん、結婚しよう」
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