最終話

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最終話

〝結婚しよう〟 頭の中で、何度もこだまする。 え?夢なのかな?これは都合のいい夢? 私は頬を思いきりつねる。 めっちゃ、痛い。 自然と涙粒が溢れ出す。洋くんの太い指が涙を拭い、頭をふわりと撫でてくれた。上半身の筋肉がキラキラしてる。今日の筋肉たちはより一層、カッコいい。そして、私を見つめる眼差しは陽だまりみたいに優しい。 「う、嘘じゃ、ないよね?本当に、私なんかで……いいのかな?」 「詩さんじゃないとだめなんだ。詩さんだから結婚したい」 「あのね、また今日みたいに嫉妬しちゃうし、また迷惑をかけると思うんだ。それでもまた助けてくれる?」 「嫉妬をする詩さんも好き、可愛い。僕、ちゃんと仕事探すから。それで、詩さんを一生守れるような男になる」 洋くんの瞳は真っ直ぐに私を見つめている。彼が変わろうとしているのが伝わってくる。私も嫌な自分から変わろうとしなくちゃだめだ。 「詩さん、返事は?」 答えなんて一つしかないよ。 「はい。私で良ければ」 私は下着姿のまま、洋くんに抱きついた。やっぱり、あったかいな。 しまった、まだ下着だったんだ。明るくなった部屋で丸見えだった事に気付き、恥ずかしくなって赤面した。 「とりあえず、服着て朝ごはんにしよっか?」 「うん」 *** 「詩さーん!もう荷物ない?」 洋くんがアパートの下から私に問いかける。 私は慌てて、残っていた段ボールを持って階段を下りようとしたが…… やっぱり、ドジだった。 段ボールごと階段から転げた。 降ってきた私を洋くんはまたナイスキャッチ! 「大丈夫?詩さん」 何回目だ?この王子様がいなかったから、もう二度も死んでると思う。命の恩人だ。 「ありがとう」 秋風が、さっぱりした洋くんの黒髪を揺らす。 タバコの匂いと同じシャンプーの匂いが混じる。 初めて洋くんの髪を切った時は、まさか付き合って、同棲して、結婚を約束するなんて思ってもみなかった。 恋人ごっこから始まった恋。 私たちは並んで見渡した。空っぽになった思い出の詰まった部屋を。住み慣れたアパートを。 私たちはその部屋に手を振る。大切な思い出はこの胸のアルバムに仕舞い込んで、これから新しい場所での思い出を作っていくんだ。 二人ならきっと、大丈夫。 握り締めた手のひらに力を込め、この部屋で最後の口付けを交わした。 そして、隣人の花岡さんに挨拶をしアパートを後にした。 私の車で大阪へ向かう。 新しいアパートに二人で暮らす。 そして、私は新しい美容院で働く。洋くんはスーツを着て働きに出る。今は便利な世の中で、スマホで小説を手軽に投稿できるサイトがあるらしい。色々なコンテストとかがあるからまた書かなきゃ、と洋くんは言っていた。まだ小説は諦めてないみたいだ。頑張って欲しい。 これからの生活は幸せだけじゃない。きっと辛い事の方が多いかもしれない。でも、洋くんと手を取り合いながら頑張っていく。お互いの手のひらがシワシワになってしまっても、ずっと一緒に居たいって思うから。 さぁ、頑張ろう!愛する人と二人で。 新しい場所の、 同じ苗字になった、 同じ部屋の暮らしの中で——。 end
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