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公園に出ました。恋人たちが腕を組んで散歩したり、お年寄りたちが目を細めながらカフェオレをゆったりと飲んでいる市立公園です。
ここも今は誰もいません。メルメルは木々が生い茂った芝生の中に入っていきます。昼間ならリスが駆け回ったりするのを見かけるのですが、今は暗い森のように見えます。
月明かりもまだらで、ちょっとした石ころや倒木に倒れそうになります。メルメルも伏せるようにしてゆっくりと進むようになり、何かがその先にいるのを感じ取っているようです。
ルネットは自分の鼓動が聞こえそうにドキドキしていました。……
ルネットはあっと声を挙げそうになりました。すぐ近くに光る目が暗闇に浮かび上がったのです。ドキンとして、逃げ出そうにもその二つの目にピンで留められたようになってしまいました。
メルメルはイタチのように立ち上がったかと思ったら、「ううーん」と言いながら気を失ってそこに倒れてしまいました。メルメルを残して逃げられない、勇気を出さなきゃと思って、叫びました。
「誰なの?!」
声を出して落ち着いたような気がしましたが、光る目に敵意の色が強くなったようです。がさっと音がすると何か小さなものが出て来ました。その目はルネットから視線をはずします。
闇に慣れた目で追うとそれは子ギツネでした。何か言いたいような顔でルネットを見上げるので、キャラメルをあげました。いざというときにメルメルがしゃべれるようにとポケットに忍ばせてあったのです。
母親なのでしょう、光る目の持ち主がソーセージをくわえたまますっと子ギツネのそばに行きますが、もう敵意はないようでした。
キャラメルが口の中で溶け始めると子ギツネはかわいい声で話しました。
「ぼく、タンポポの綿毛を追いかけて野原を走っていたら、悪い人間に捕まっちゃったんです。ずっと馬車で連れられていくのをお母さんが追いかけて、この遠い街まで来ちゃったんです」
「かわいそう……」
「それで、なんとか隙を見てぼくを助け出してくれたんですけど、おうちのある森まで帰る元気もなくて、それでこの公園に隠れてたんです」
「そっか。食べる物もないからお母さんがソーセージを盗ったのね」
「はい。とってもおいしいから元気になりました」
「よかったね。でも、お肉屋のおじさんは困ってるんだよ。もうしちゃダメってお母さんに言って」
子ギツネが母キツネに甘えるように何か言うと、母キツネは1/4くらい残ったソーセージを芝生の上に
「夜明け前にこの街から離れたところに行っておいた方がいいから、今から帰ろうってお母さんは言ってます。おねえさん、キャラメルありがとう。とってもおいしいかったです」
「うん。元気でね。もう悪い人に捕まらないように気をつけて」
それから親子のキツネは何度も振り返りながら去って行きました。もう見えなくなって、手を振っていたルネットがあたしもおうちに帰ろうと思ったら……いつの間にか目を覚ましたメルメルは、母キツネが置いていったソーセージをちゃっかり食べていたのでした。
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