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 高級料亭の個室。4人ほどが座れる座卓には父と私、その向かいに1人の若い男性が座っている。  俳優さん? モデルさん? すごく整った顔してるなぁ……。  私より少し歳上なのだろう。落ち着いた大人の余裕を感じる。 「結衣子、この人と結婚しなさい」  まだ料理も運ばれてきていない中、父の重く静かな言葉が聞こえた。  え? 結婚? 昨日『きちんとした服装で来なさい』って言われたから、大事な用事だとは予想できたけど……まさか結婚の話だったとは……。  濃紺のスーツを着こなし爽やかな印象を受ける若い男性はにこやかに——いや、薄ら笑いを浮かべて私を見ている。まるで私がどう答えるのか試すような視線。少しの不快感を感じた。でも、私の答えは最初から決まっている。 「はい、わかりました」  特に何の感情もなくそう返事をした。 「まさか、本当に了承するとは……物分かりの良い娘さんですね」  フッと小さく笑い呆れたような、あるいは感心したような向かいの男性。  初対面の私と結婚しろって言われているのに、全く動じないなんて、この人、何を考えているんだろう?
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