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相変わらず大人の余裕を感じる態度に視線をチラッと男性に向けてみた。薄く笑って私と父を交互に見ている。本心がどこにあるのか見当もつかない。
「昔から言うことをよく聞くいい子でね。私の手を煩わせない、いい子だよ」
「そうですね。ここまで聞き分けが良いと面倒な手間が省けて助かります。……仁志社長からは娘さんにご説明なさったのですか? こうなった経緯などは」
「いいや、私からは何も。君に任せるよ」
「そうですか……」
父と向かいの男性の会話を適当に耳に入れていると——。
「失礼致します。お料理をお持ち致しました」
障子が丁寧に開けられ、少量ずつ上品に盛り付けられた懐石料理が目の前に配膳された。
わぁー、綺麗。おいしそう。
洋食より和食が好きな私は、久しぶりの豪勢な懐石料理に胸が躍る。
「僕はこの料理以下ですか」
配膳が済み、室内にはまた3人だけになると向かいに座る男性が失笑した。流れる沈黙。
……え? 私に言ったの?
視線を料理から離し、男性に向ける。相変わらず呆れたような、あるいは探るような顔で私を見ていた。
「申し訳ありません。そのようなつもりはなかったのですが、そう感じられたのであればお詫び致します」
適当に謝り、小さく頭を下げる。
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