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「では、私はこれで失礼するよ。問題があれば連絡をくれ」
「承知しました」
食事を終え席を立つ父に、深々と頭を下げる向かいの男性。
「結衣子、帰りは彼に送ってもらいなさい」
「はい、わかりました」
そう返事をすると——。
「おや? お帰ししないとダメですか? 僕たち、結婚するのですが」
ニヤリと笑って父を見ている。
「おいおい。冗談はやめてくれ。まさか『あの約束』を忘れたわけではあるまいな?」
ははっと笑い、釘を刺した父。
あの約束?
「わかっています。僕もそんなつもりはさらさらありませんし」
「すまないね。……では、失礼」
そのまま個室を出て行く後ろ姿を見送る。父が退室するとゆっくりとお茶を一口飲んだ向かいの男性。
「明日も仕事ですよね? 時間もないので端的に説明します。よく聞いておいてください」
先程までの笑いは消え、刺すような冷たい口調で切り出した。
「貴女のお父様が社長を務められている『仁志自動車』が業界を……いや……日本を揺るがす特許を申請していたことはご存知ですか?」
日本を揺るがす特許? なにそれ。
「いえ、知りません」
「でしょうね」
蔑むように笑われる。
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