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オワリノ公園(アイリア・リライザ・イーザン・ミウリン・ルーリウ)
〇オワリノ公園 夕方
土管の裏
【イーザン】 なんで気が付いた時にすぐ言わなかった!
【ルーリウ】 聞き覚えがあった程度だったんだ、確信なんてなかったし、ありふれた名前だと思ったんだよ。他国の名前なんて、みんな同じように聞こえるじゃないか。
【イーザン】 イヨの国の女だってだけで嫌だったのに、よりにもよって姫かよ……! どうすんだよ、あれ!
【ルーリウ】 落ち着いて、イーザン。
【イーザン】 落ち着いていられっかよ! 国のトップだぞ、どんな裏があってミウリンに接触したかなんて俺にわかるわけねえだろ! 今、あいつらを殺れるだけの何かがここにあるのか!?
【ルーリウ】 落ち着けよ。見た所、本当にただ喋ってるだけに見える。姫だっていう子も、どことなく馬鹿っぽいし。付き人っぽい、眼鏡の子の方もただ引き摺られるがままって感じ。殺さなくても、少し怪しい様子があったら張り倒せば立ち上がるのに時間を食うよ、きっと。動きずらそうな服装だもの。すぐに殺そうとする癖治しなよ。将来困るよ。
【イーザン】 『将来』がちゃんと来ればな。……ミウリン、大丈夫か。
【ルーリウ】 そんなに心配なら、もっと近くで見守ってあげなよ。
【イーザン】 ちょ、押すな! やめろ! ここで見てた方が、いざってときに!
【ルーリウ】 イーザンの『いざってとき』は大抵やってこないんだから。ほら、行こう?
【イーザン】 ルーリウ、おまえ、覚えてろ!
広場中央
【アイリア】 お待たせ、ミウリン! リライザが行きたくないって言って聞かなくて。
【リライザ】 あぁ……怒られる……。
【アイリア】 さっきまであと二人ほどいたようだけれど、どこに行ってしまったの?
【ミウリン】 おにいちゃんと、おにいちゃんのお友だちなの。……どこにいっちゃったんだろう……?
【アイリア】 戻ってくるまで、お話ししていましょ? まあ、ミウリン! その手に持っているのはなあに?
【ミウリン】 これ、花カンムリっていうんだよ! シロツメクサをね、こうやって……。こっち、あげる!
【アイリア】 まあ! 私に似合うかしら?
【ミウリン】 似合うよ! そっちのおねえちゃんには、レンゲのお花でつくってあげるね!
【リライザ】 ひっ……いっいえ、結構です! アブラムシがつくでしょう! 近付けないでください!
【アイリア】 あらリライザ。あなた、虫の図鑑見るの好きじゃない。蝶々に詳しいでしょう?
【リライザ】 図鑑で見るのとはわけが違うわ! ちょっとあなた、やめなさい!
イーザンとルーリウが戻ってくる
【ルーリウ】 ミウリン、嫌がってるよ。人が嫌がることはやらない。
【ミウリン】 でも、おにちゃんはわたしが嫌って言うこともやってくるよ?
【イーザン】 余計な事言うなよ。
【ルーリウ】 イーザンにやられて嫌だったことは、イーザンにやり返すんだ。
【アイリア】 始めまして。あなたが、『おにいちゃんとおにいちゃんのお友だち』?
【ルーリウ】 ミウリンの兄はこっち、イーザン。僕がその友達のルーリウ。
【アイリア】 アイリアよ。友人のリライザ。
【イーザン】 ふんっ。大層な名前だな。まるでイヨの国の姫君みたいだ。(ルーリウがイーザンの頭を叩く)……いたっ。
【リライザ】 っどこでそれを!
【ルーリウ】 いやだな、例え話だよ。僕らの耳に馴染みのない、美しい響きの名前だったから。それとも……本当にイヨの国のお姫様だったりした?
【アイリア】 ……まさか! そんな高貴な人間に見えるかしら?
【イーザン】 いいや、全く。素手で芋でも食ってそうだな。
【リライザ】 ~っ!
【ルーリウ】 イーザン、女性に対してそれは駄目でしょ。ごめんね、イーザンは人類全員獣にしか見えていないんだ。
【イーザン】 ミウリン、帰るぞ。
【ミウリン】 えー! なんで! アイリア、今きたばっかりなんだよ! まだ遊ぶ!
【イーザン】 駄目だ。イヨの女と会ってたなんて知られたら、俺達が危ない。餌に使われる。
【アイリア】 餌? どういう意味?
【イーザン】 話しかけんな。
【ルーリウ】 僕らを使って君たちをこの公園におびき寄せて、ムメの国の人攫いが君たちを誘拐する。
【リライザ】 アイリア! すぐに帰りましょう! やっぱり危険よ、ここは!
【ルーリウ】 ってことも有り得るよねって話さ。
【ミウリン】 オワリノ公園にはだれもこない!
【イーザン】 じゃあミウリン。お前はどうやってこの女と知り合った。
【ミウリン】 えっ……この公園で、ルーリウのおばさんにあげるお花つんでて……それで、アイリアがきて……
【イーザン】 人、来てんじゃねえか。
【ルーリウ】 ミウリン。僕のお母さんにお花を持ってきてくれるのは嬉しいけど、一人で国から出ちゃ駄目だ。
【アイリア】 そうよ、ミウリン。あなたまだ小さいんだから、人攫いに出遭ってしまったら大変よ!
【リライザ】 アイリア! あなたにも言えることなのよ! 自分の身分に自覚を持ちなさい!
【イーザン】 おっと従者様、口が軽いんじゃないのか?
【リライザ】 黙りなさい、無礼者! アイリア、近衛兵を呼ぶわ!
【アイリア】 駄目よ! 今は私のプライベートの時間なのよ! そんなに怒られるのが怖いなら、あなただけお屋敷に帰ればいいわ! あなたがスクールでもそんな様子で、お友達なんて作れそうにないから、今日ここに連れてきたのに……! そんなに家柄が大事なの!?
【リライザ】 家柄が大事なんじゃなくて、あなたが大事なの!
【アイリア】 大事にしないと、お父様に怒られるからじゃない!
【ルーリウ】 ミウリンが見ている前で、やめてくれないかな。
ミウリン、ルーリウの後ろに隠れる。
【リライザ】 その子供がアイリアをここに呼んだのがいけないのよ! アイリアは物珍しいものになら何にでも興味を持ってしまうもの!
【イーザン】 ムメの国の薄汚い子供に興味を? いい趣味してるな、だから嫌いなんだ、お前らイヨの国の人間が。興味本位で手を出してくる!
【ルーリウ】 おっと。皆、落ち着けよ。論点がズレてきた。ほら、ミウリンも怯えてる。一つずつ問題を解決していこう。ぎゃーぎゃーと言いたいことばっかり投げ合ってさ、ムメの大人みたいだよ。
【イーザン】 ……ミウリン、ルーリウ、帰るぞ。
【ルーリウ】 イーザン、君は言葉を使わな過ぎるんだ。ムメに足りないものも君に足りないものも同じだよ、話し合いだ。折角頭がいいんだから、使わないと損だよ。
【ミウリン】 わたしは……アイリアとお友達になりたいの。
【ルーリウ】 イーザンとリライザはそれに反対してる。
【イーザン】 ミウリンのためを思ってだ。
【リライザ】 私だって、アイリアのためを思ってこそよ。
【ルーリウ】 アイリア、君はなんでミウリンと友達になりたいんだ?
【アイリア】 ミウリンは私の知らない世界を生きているからよ。スクールじゃ教えてもらえないことを、たくさん知ることができるの。それが楽しいのよ!
【リライザ】 それなら、スクールの先生に聞けば教えてもらえるわ! 家庭教師にだって聞けるし、あなたの知らない世界を知っている大人はたくさんいるわ。
【アイリア】 彼らはムメで生きてきたの? 先生たちが知っているのは、紙に書かれた、選ばれた情報だけ。私は、見えないところも全部知りたいの。だから、ムメのお友達もエズのお友達も欲しいの!
【イーザン】 エズの? 物好きだなお前。あんな狂犬ども、友達になんてなれるわけないだろ。
【アイリア】 スクールに通いたての頃の私なら、ムメの子供と同じ言葉で会話ができるだなんてことも知らなかったわ。違う言語を使っているんだと思ってた。イーザン、あなたの世界もとても狭いのね。私たちと同じ。
【ミウリン】 おなじ?
【アイリア】 同じよ! だって、ミウリン。あなたには二つ目があって、一つ鼻があって、一つ口があって、二つ耳がある。私も、ほら! 二つ、一つ、一つ、二つ。同じ。ミウリン、あなたの手の指は全部で何本?
【ミウリン】 十本!
【アイリア】 ほら、同じ!
【リライザ】 でも、立場が違うわ。
【アイリア】 そんなもの、見えないじゃない。見えないものは、ないのと一緒よ。
【イーザン】 じゃあ、友情なんてもんもないな。
【アイリア】 ええ、ないわ。だから、私とミウリンはもう友達なの。
【ルーリウ】 あぁ……また面倒なことを。
【イーザン】 お前の好きな論点が、またズレたな。
【ルーリウ】 揶揄わないでよ、イーザン。アイリア、君がどういう思いでミウリンと友達になりたいのかはわかったよ。でも、君のおかれている立場はそれを許してくれないらしいよ。リライザ曰くね。
【リライザ】 当然よ。アイリアはイヨの国の王家長女、姫なのよ!
【ミウリン】 お姫さま!? ほんと、アイリア!
【アイリア】 ……ほんとよ。黙っていてごめんなさい。
【ミウリン】 すごい! かわいい! お話し聞きたい!
【アイリア】 ! いいわ、お話ししましょう!
【リライザ】 アイリア!
【ルーリウ】 リライザ。諦めた方がいいんじゃないかな。アイリアは、見えないものから逃げたかっただけだったんだ。君も、少し視野を広く持った方がいい。イーザン、君にも言ってるんだ。
【イーザン】 友達つくったら、あの国から逃げれんのかよ。
【リライザ】 そうよ……! ただの現実逃避じゃない。無意味よ。
【ルーリウ】 今君たちは、どの国にも属さない土地に立ってるんだ。
【アイリア】 案外、逃げるのなんて簡単なのよ。現実逃避でもいい。私は、やりたくないことはやらない。姫の椅子には、誰でも座れるのよ。私である必要はないわ。
【リライザ】 アイリア、そんな……
【アイリア】 知らないの? 私のお母様は元々王家じゃないもの。誰でもいいのよ。そこに座れる勇気と頭のキレさえあれば、誰でもね。
【ミウリン】 アイリア、花カンムリつくろう!
【アイリア】 ええ、作りましょう! 作り方を教えてくれる?
【ミウリン】 うん!
【ルーリウ】 ……大分、日が傾いてきたね。知ってた? この公園、月がとてもきれいに見えるんだ。イーザン、今は、全て忘れようよ。
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