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オワリノ公園(夕方)(全員)
〇オワリノ公園 エズの国よりの端 夕方
公園内の様子をうかがっている
【クークリウス】……どう思う。
【ロデルリヒ】 イヨの国のアイリア姫だね。隣の瓶底眼鏡は知らないけど、身なりはイヨの国らしい。あとの三人は、どう見てもムメの国だ。どうして肩を並べてるのかなんてのはわかんないけど。
【クークリウス】奴隷にでもしようって考えじゃないのか。
【ロデルリヒ】 そんな、時代錯誤すぎるよ。まあでも、従者として拾い上げようとしてるって意味では、かもしれないよね。
【クークリウス】……どうするべきだと思う。
【ロデルリヒ】 え? 別に、どうもしなくてもいいんじゃない?
【クークリウス】私は、エズ王国軍、軍隊長の娘だ。アイリア姫の身柄を拘束してエズの国に連れていけば、父上の手柄になる。
【ロデルリヒ】 でも、僕らがオワリノ公園に行ったってことはバレるね。
【クークリウス】父上のためになることならば、怒られてもいい。
【ロデルリヒ】 ……それが本心なら、僕は何も言うことなかったんだけどね。
【クークリウス】本心だ。
【ロデルリヒ】 僕の目を真っ直ぐに見て、同じことが言える?
【クークリウス】……意地の悪いことを言わないでくれ。わかってくれ、ロディ。
【ロデルリヒ】 わかってるつもりだよ。クックが父親の名誉に縛られてるってことくらい。
【クークリウス】ロディ。
【ロデルリヒ】だって、そうでしょ? いつだって君は自分の気持ちで動かないんだ。家のことばかりでさ。
【クークリウス】そのおかげでお前と友人になれた。
【ロデルリヒ】 感謝できるのはその点だけだね。でも、君が僕の前ですっころんだあの一瞬がなければ、もっと他人行儀な関係だっただろうね。
【クークリウス】……思い出させないでくれ。
【ロデルリヒ】 可愛かったよ、あの時のクック。目に一杯涙溜めてさ。父上には言わないでくれって。
【クークリウス】ロディ!
近くで誰かが転ぶ音
クークリウスとロデルリヒが草陰を覗き込む
【クークリウス】お前は……
【ロデルリヒ】 ありゃ。泣き虫のナガレモノさんじゃないか。こんなところでどうしたの?
【トートチカ】 あっえっ……えっと……ナガレモノって呼ばないで……。
【ロデルリヒ】 ごめんね、名前知らないんだ。だって君、道場にも一度来たきりだったじゃないか。
【トートチカ】 ……トートチカ。あなた達は知ってる。軍隊長の娘さんのクークリウスさんと、参謀長の娘さんのロデルリヒさんでしょう。
【ロデルリヒ】 『さん』はつけなくていいよ。ね、クック。
【クークリウス】ああ。(アイリアたちの方を慌てて振り返る)……! こっちに来い。あいつらにバレる。
【トートチカ】 な、何をしているの?
【ロデルリヒ】 見てごらんよ。イヨの国の姫君とムメの国の子供が遊んでるんだ。なかなかに面白い光景だよ。
トートチカ、アイリアたちのほうを見て顔を青褪めさせる
茂みから飛び出す
【トートチカ】 ルーリウ!
【ミウリン】 トートチカ! おにいちゃん、トートチカが帰ってきた!
【ルーリウ】 トートチカ! 久しぶり、どうしてここに?
【トートチカ】 イーザンとミウリンまで……! いけない、イヨの……
ルーリウ もうその話は済んだんだ。僕たちは大丈夫。皆で黙り合うことにしたよ。
【トートチカ】 ……あそこに、エズの子供がいる。あなたたちを見てた。
【イーザン】 ! ミウリン、こっちに来い!
【ミウリン】 まだ帰らない!
【イーザン】 違う、そうじゃない! いいから来い!
イーザン、ミウリンを抱き上げてアイリアたちから引き離す
【ミウリン】 なに、離して!
ミウリンの悲鳴を聞いて、クークリウスが太い木の枝を拾って茂みから飛び出す
追って、ロデルリヒも出てくる
イーザンに木の枝で殴りかかるが、避けられる
【リライザ】 きゃあっ!
【クークリウス】その幼女を離せ、人攫いが!
【イーザン】 はぁ!?
【クークリウス】トートチカ、お前も共謀者だったのか!
【トートチカ】 な、なんのこと?
【クークリウス】そのムメの男と三人で、イヨの国の女とその幼女を攫って行くつもりだったんだろ!
【ロデルリヒ】 ちょっとクック! 早とちりがすぎるよ。トートチカがそんなことをして許される立場にいると思うの?
【クークリウス】これを行うためにエズに来たのだとしたら、どうだ!
【トートチカ】 なにを言っているのか、わからない。
【アイリア】 野蛮よ! そんなもの振り回さないで! ミウリンに当たったらどうするのよ!
【クークリウス】黙れ! お前も守ってやろうとしてるんだ! イヨの国の姫が、護衛もつけずに何をしている!!
【イーザン】 ちっ。
イーザンがミウリンをルーリウに任せる
木の枝を蹴り飛ばし、クークリウスの胸倉を掴む
【イーザン】 ふざけんなゴリラ女!
【クークリウス】なっ! 誰がゴリラ女だ!
【イーザン】 トートチカがエズの国の奴がこっち見てるって言うから、ゴリラの餌食になる前に逃げようとしたんだ! 案の定じゃねえか!
【ルーリウ】 僕とイーザンは人攫いじゃなくて、ミウリン……この子の兄とその友人だよ。アイリアは窮屈な王宮から逃げ出してきて、リライザはアイリアに連れてこられた。トートチカは、僕らがイヨの国の人間と話していることを心配して、エズの国の人間が見ているから気を付けろって忠告をしに来てくれた。僕らムメの国の小汚い子供がイヨの王族と話していること以外で、何かいけないことがあったかな?
イーザンがクークリウスから手を離す
【ロデルリヒ】 ごめんね、彼女ったら正義感が強すぎるものだからさ。早とちって突っ走っちゃう癖があるんだ。
【クークリウス】……それが全て事実なら、悪かった。イヨの姫君がムメの国へ攫われてしまうのではないかと……
【リライザ】 それのどこに、エズの国のあなたが慌てる理由があるっていうの?
【クークリウス】私が姫君を攫うことができれば、父上の手柄に繋がる。それを、ムメに横取りされると思ったんだ。
【ロデルリヒ】 正直すぎるよ、クック!
リライザがアイリアを守るように背に庇う
アイリアが手を叩く
【アイリア】 やめよ! ここはどの国にも属さない無法地帯。この公園にいる間は、国なんて関係ないのよ! 私は私。ただのアイリアよ。
【ルーリウ】 君たちも、羽を伸ばしに来たんじゃないのかな。互いに黙っていようよ。今日この時間に、この公園に来てたってことをさ。
ミウリンがルーリウの手から離れて、クークリウスとロデルリヒの前に立つ
【ミウリン】 ケンカがおわったなら、ごめんなさいって言うんだよ!
【イーザン】 求めてねえよ。
【クークリウス】……ごめんなさい。
【イーザン】 求めてねえって言ってんだろ!
【クークリウス】過失があったのはこちらだ。非を認める。
【ロデルリヒ】 僕も、クックを止めきれなかったから。ごめんなさい。
【ミウリン】 これで仲直りだね! みんなで、花カンムリつくろう!
【ルーリウ】 それで、トートチカ。エズの国に越してまだ日が浅いけど、もう軍隊長の娘さんと参謀長の娘さんと仲良くなったんだね。
イーザン、アイリア、リライザが驚く
クークリウスとロデルリヒが少し身構える
【トートチカ】 ……ルーリウ。どこでそんな
【ルーリウ】 (遮って)まあまあ。
【ロデルリヒ】 そっか。トートチカは元々ムメの国に住んでいたから、彼らと面識があったんだね。……正直、ムメの国の人間同士でも、もっと殺伐としてるもんだと思ってたよ。
【イーザン】 国の真ん中に住む大人はな。端の連中や子供は特に、自分を守るために徒党を組む。お前らが思ってるより、俺らは餓えてないし孤独でもない。
【リライザ】 ……話してみないと、わからないことがあるみたい。
【アイリア】 リライザも、ミウリンたちのことを気に入ってくれたみたいで嬉しいわ。
【ミウリン】 お友だちはたくさんいた方がたのしいもんね。
【アイリア】 そうね! ねえ、あなたたちの名前も教えてちょうだい。今だけ、お友達になりましょう? 国に戻ったら、みんな忘れるわ。
【クークリウス】……クークリウス。エズ王国軍、軍隊長の長女だ。
【ロデルリヒ】 参謀長の娘のロデルリヒだよ。君たちの名前も、僕らに教えてよ。内緒にするって約束するから。
【ミウリン】 わたし、ミウリン! お兄ちゃんの、イーザン!
【イーザン】 ん。
【ルーリウ】 イーザンがリーダーを務めてる徒党の下っ端、ルーリウだよ。
【アイリア】 アイリアよ。国に戻れば、姫になるわ。
【リライザ】 メイドのリライザ。あなたは?
【トートチカ】 ト、トートチカ。最近までイーザンの徒党にいたけど、父さんがエズの王国軍に引き抜かれて、家族でエズの国に越した。
【アイリア】 そんなことがあるの?
【イーザン】 イヨの国でも似たようなことしてんだろ。ムメから使用人用に子供を連れ出してる。
【リライザ】 協会の孤児院に入れてるのよ! 人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!
【イーザン】 そこで大人になったら、キョーカイとやらで働くか、デカイ家の掃除係になるんだろ。一緒じゃねえか。
【リライザ】 無理やり働かせたりなんてしていない!
【イーザン】 他に選択肢はないだろ。
【ルーリウ】 はいストップ。君らさては犬猿の仲だね? 言ったでしょ、今は国の話はなしだ。
【イーザン】 ルーリウ、俺らは国に縛られてる。
【ルーリウ】 ここにいる間はそれを忘れようって言ってるんだ。
【クークリウス】ミウリン、それはどうやって作っているんだ?
【ミウリン】 花カンムリ! 教えてあげるから、シロツメクサをつんでこよう! ロデルリヒも、トートチカも!
【トートチカ】 わ、私も?
【ミウリン】 うん! 花カンムリができたら、今度は皆で四つ葉のクローバーを探そう!
【アイリア】 それは知ってるわ! 見つけたら幸福になれるんでしょ?
【イーザン】 こうふく
【ルーリウ】 (遮って)余計な事言わないよ、イーザン。
【ロデルリヒ】 月を見に来ただけだったんだけどなぁ。もっと楽しいことになるなんて、思ってもみなかったよ。
【ルーリウ】 悪くないでしょ?
【ロデルリヒ】 悪くないね。
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