オワリノ公園(夜)(全員)

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オワリノ公園(夜)(全員)

〇オワリノ公園 夜   ミウリン、イーザンの膝枕で眠る 【リライザ】 今頃、王宮は大騒ぎでしょうね。 【ロデルリヒ】 クックのお屋敷もね。 【クークリウス】脅かさないでくれ。 【ルーリウ】 怒られる覚悟はできてる? 【クークリウス】家を出るときに済ませておいた。 【アイリア】 (四葉のクローバーを月に翳す)……帰りたくないね。 【リライザ】 駄目よ。 【アイリア】 わかってるわ。……思いを口に出すことくらい、いつだって自由にさせてくれたらいいのに。(何か言いかけるリライザを手で遮る)わかってるわ、それも。 【イーザン】 ……誰かの上に立てるのは、孤独に耐えられるやつだけだ。孤独は必ずしも自由じゃない。 【クークリウス】……なるほど。確かにそうかもしれない。 【トートチカ】 奇しくも、三つの国のそれぞれのトップに近い人が集まっちゃったんだね。 【ルーリウ】 イーザンの立場が特殊すぎるけどね。 【クークリウス】……アイリアは、王座につきたいのか? 【アイリア】 どうかしら。……楽しくないことは、本当ならやりたくないの。でも、大人になるってそういうことでしょ? 【ロデルリヒ】 イーザンは? なりたくて徒党のトップに立ってるの? 【イーザン】 気付いたら子分ができてた。 【ルーリウ】 頼りたくなるほど強いってことだよ。それに、イーザンはこう見えて面倒見がいいからね。頼られたら断れないんだ。 【リライザ】 ルーリウはなぜイーザンの徒党に? 【イーザン】 俺が誘った。 【ルーリウ】 チェスで五回勝負して、三回勝ったら徒党に入ってあげるって言ったんだ。 【アイリア】 じゃあ、トートチカも? 【トートチカ】 わ、私は、違う。私は、イーザンの領地で盗みをやって、それで捕まった。下につけば許してやるって言われたから。 【イーザン】 俺の徒党には男しかいなかったから、ミウリンの世話を見られるやつが欲しかった。 【クークリウス】ムメの徒党というものは、もっと……猿山のようなものだとばかり思っていた。 【ルーリウ】 場所によるよ。イーザンの徒党は平和な方なんだ。情報や食料の共有がしっかりしてるし、仲間意識が強い。 【イーザン】 ルーリウとトートチカが加わってからだ。大きく変わったのは。それまではそれこそ猿山みたいだった。ルーリウが大所帯で過ごすための知恵を与えて、トートチカが人の心を教えた。だから、ちゃんとまとまった。 【トートチカ】 もう一つの家みたいな、感じ。 【ロデルリヒ】 じゃあ、そのもう一つの家を出てしまったトートチカは今、とても心細いんだろうね。 【トートチカ】 ……それもある。でも、それより、エズの国の習慣に馴染めなくて困ってる。エズの国は、とても不自由。道を歩くのも、食べ物を食べるのも、どこにも人の目があって、窮屈。 【アイリア】 そうなの? 【クークリウス】礼儀や作法を重んじる。目上の人物の前での所作も、動きの流れが決まっている。 【イーザン】 うげ、めんどくせえ。息が詰まりそうだ。 【トートチカ】 今日はムメに、母さんの墓参りのために帰ってきていた。母さんがいた国を……私が育った自由を忘れないために。本当は、ミウリンにも会いたかった。私が突然いなくなったから、驚かせたかと思った。 【イーザン】 驚いてた。……泣いたよ。 【トートチカ】 ……ごめん。言う暇もなかった。 【リライザ】 話しを少し戻すけど。その徒党には、必ずどの子供も属さなければいけないの? 【ルーリウ】 いや? 言わなかったかな、徒党を組むのは自分を守るためでもあるんだ。もちろん、所属せずに一人で放浪している子供もごまんといるよ。 【リライザ】 兄弟は必ず同じ徒党に所属するの? 【イーザン】 当人たちの自由だ。離れたくないのなら同じ徒党に入ればいいし、決別したいのなら敵対関係にある徒党に入って殺し合えばいい。 【リライザ】 ミウリンは、イーザンと同じ徒党に所属していることになっているの? 【イーザン】 所属はしてない。……俺が徒党の方に集中することがあるから、トートチカにミウリンの世話を頼んだんだ。ミウリンはトートチカのことを、遊んでくれるやつって思ってるんだろうよ。そこに、徒党は関係ない。 【アイリア】 ミウリンは、体の割りにとても賢いわね。今いくつなの? 【イーザン】 ……四つ。 【ルーリウ】 里子には出したくないらしいよ。もちろん、協会にも軍隊にもね。 【アイリア】 答えのわかっている質問はしないわ。 【ルーリウ】 イーザンが徒党を組んでそのトップに立つのは、ミウリンのためだ。 【イーザン】 ルーリウ、やめろ。 【ルーリウ】 危険なんだよ、ミウリンを一人で遊ばせるのは。誰かが近くについていてあげなくちゃいけない。この子は、賢すぎるんだ。自分の頭脳に、まだ気が付いていないからこそ、危険なんだ。 【ロデルリヒ】 ……時折いるよね、そういう『賢すぎる子供』って。イーザンとミウリン、親はいるの? 【イーザン】 知らねえ。 【ロデルリヒ】 だから尚更、イーザンが守ってあげなくちゃいけないのか。 【クークリウス】もう一つの家。……そのための、徒党なのか。……羨ましいよ。   ミウリン、目を覚ます。起き上がり、目を擦りながら一人一人の顔を見上げる。 【ミウリン】 クック、泣いてるの? 【クークリウス】泣いていない。……泣いてはいけないんだ。 【ミウリン】 クック? 【クークリウス】家の決まりだ。五歳を過ぎたら、泣いてはいけない。 【ロデルリヒ】 僕ら、死ぬために生まれてきたんだ。将来は皆軍隊に入って、ムメの国やイヨの国と戦争をするってときのための兵士になる。国のために、喜んで死ななきゃいけない。 【リライザ】 ……それが名誉だと? 【ロデルリヒ】 そういうことになってるんだ。 【アイリア】 ……嫌な世界ね。どこもかしこも。 【ロデルリヒ】 僕、小さい頃に考えたことがあるんだ。世界は、なんで三つにわかれちゃったんだろうって。考えたって仕方のないことだとは思うんだ。 【アイリア】 国立図書館に、史料があったはずだわ。 【イーザン】 お前が言ったんだろ。資料には、選ばれた情報しか載ってない。 【トートチカ】 きっと、そのときはそれが最適解だったんだ。 【ルーリウ】 世界は、わかれたのかな。 【リライザ】 どういう意味? 【ルーリウ】 一つの世界が三つにわかれたのかな。それとも、数十、数百の世界が集まって潰されて、三つにまで減ったのかな。 【クークリウス】それこそ、何かの本に情報が 【ルーリウ】 それが本当に正しい情報だって、誰がわかるのかな。その時代に生きていた人間は、もういないんだ。 【ミウリン】 世界って、見えないものなんだよ。 【アイリア】 ……そうね。見えないものは、ないのと同じ。……私、王座につくわ。そしたら、この世界を変える。自由な世界をつくる。 【イーザン】 そんな簡単にできるわけないだろ。 【アイリア】 もちろん、簡単なことではないと思ってるわ。でも、リライザがいる。クークリウスとロデルリヒとお友達になれた。イーザンとルーリウとトートチカ、ミウリンから、いろんな話を聞ける。 【ロデルリヒ】 もし僕らが世界を変えられたなら。 【アイリア】 世界を一つにするわ。このオワリノ公園を、世界の中心にする。 【ルーリウ】 えー。人がいないから素敵な場所なのに。 【アイリア】 今の世界だからそう思うのよ。一つになった世界でも素敵な場所であるように、頑張るわ。 【トートチカ】 途方もない計画。謀反がおこる。 【アイリア】 強い味方がいるわ。 【クークリウス】他力本願か。 【アイリア】 武力面はね。頭脳面も、きっとルーリウたちに頼るけどね。クークリウスもわかったでしょ? 私たち、一人では生きていけないの。 【イーザン】 ムメの徒党と同じだ。まずは、同じ思考の人間を集めなくちゃいけない。言葉を使うのは、ルーリウが得意だな。ミウリンも、ちゃんと勉強させれば、もっと頭がよくなる。 【ルーリウ】 ……近々、大きな戦争が起きそうだね。……嫌だな。 【ミウリン】 ケンカのあとは、ごめんなさいって言うの。そうしたら、またお友だちになれるんだよ? 【ルーリウ】 そうだね。……そうだといいね。   帰るために全員が立ち上がる   ミウリンが目を擦ってイーザンと手を繋ぐ 【ルーリウ】 僕、結構この世界が好きなんだ。 【ロデルリヒ】 君たちに会えたんだ。案外、捨てたもんじゃない。 【リライザ】 でも、私たちが、この世界を変えなきゃいけない。 【トートチカ】 それでもこの場所だけは、ずっと変わらない。 【ミウリン】 わたしたち、ずっとお友だちだよ。 【クークリウス】またここで、月を見たい。 【アイリア】 四葉のクローバーを探しに来るわ。 【イーザン】 全てが終わったら。オワリノ公園で、また会おう。 僕らきっと、ここを新たな家にしよう。 (↑作者が所属する劇団は合成音声を使用した)
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