消えないお前 〜アンドロイドが知った現実は悪夢より酷かった〜

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(1)夢 俺は久しぶりに妻と手を取り合って、高級店街でショッピングを楽しんでいる。妻は若く、美しく、明るく、俺を愛している。俺はそっと妻の頬に唇を近づけた。 急に眩しい光が襲った。俺は目が覚めた。 「夢の内容を教えてくれ」精神神経技師が言った。 「いつもと同じだよ。特に何も変わってない」 「ふむ。肝心の神経がつながってないな。これ以上は無理か」 俺は妻を思い出す。子供ができないことを分かっていて結婚した。幸せだった。しかし酷いエアクラフト事故で妻は死んだ。 俺はそのショックで神経の一部が焼き切れたのだ。再生のための培養は終わっている。 「1本だけつなごうか?」白衣の男が言う。 「本当か?」 「ああ、その1本で過去の記憶の1部が蘇る」 俺は了承した。 その1本は俺に地獄の苦しみを味あわせた。飛び散る機体、そして工作した俺。 (2)警官 俺がベッドで気がつくと、警官たちが入ってきた。 「ジェイク、君を逮捕する。自家用小型エアクラフトを墜落させ、奥さんを殺した容疑だ」 俺は反射的に彼らに銃弾を浴びせ、全員を倒すと、主任技師に命じた。俺の神経を全部つなげと。主任技師は従った。 俺は再び目を覚ました。さほど時間は経ってないはずだ。そして全神経がつながっているはずだ。 「ジェイク、君を逮捕する」さっきと同じ声が上の方から聞こえた。殺ったはずの連中がいる。 「お前たちはなぜ生きてる?」 「君に武器を持たせる訳がないだろ。全てはVRだったんだよ」 心臓がどくどくする。 「思い出したんだろ。話を聞きたい」 「断わる。話すことは何もない。今でも一緒だ。変わってない」 「君の記憶の3D映像は既に撮ってあるよ、神経を1本つないだ時からね」 ロボット犬1台、特殊部隊が数人いる。大げさなことだ。 もう終わったのだ。俺は彼らに従うことにした。 (3)対話 ブルーム刑事が語った。 「アンドロイドの君は人間の妻を娶った。愛し合ってたんだろうな。 しかし奥さんは子供が欲しくなった。君に黙って人工授精をした。 浮気と誤解して嫉妬に狂った君は、お腹のなかの子供と一緒に奥さんを殺すことに決めた。 そして自家用エアクラフトに細工をしたんだ。完全自動化されたエアクラフトは離陸して間も無く落ちた」 「一部違ってるな」俺は応えた。 「どこが?」 「不完全な人間が俺を裏切った。だから罰を与えたんだよ。正義を執行しただけで感情は特にはない」 「君の感情曲線は人間の感情パターンと変わらないが」 「そりゃそうだ。俺は人間として設計されている。感情も持っている。だが根本は人造人間なんだよ」 「残念だな。君はほとんど人間だと思っていたんだが」 「不完全な所は人間に似てるんだがな」 「人生の成功を棒に振ってまでねぇ」 「無関係だ。それは俺には分からない感情だよ」 (4)死と友情 俺は死刑になる。アンドロイドはハイブリッド脳を破壊されるのが死刑だ。身体は再利用される。 俺は妻の死体映像に苦しめられた。記憶は残っていた。 俺は自分の脳を破壊することにした。 この記憶はメモリーチップに記録させておく。 自殺用の歯のスイッチを噛めば大電流が俺の脳を焼き尽くす。  ・・・・・・ 「記録はここまでです」部下が言った。 「自供としては十分だな」と、ブルーム刑事。 「奥さんはなぜ夫に相談しなかったんですかね」 「猛反対するのが分かってたからさ」 「既成事実を作る作戦ですか」 「人間的だな。だが奴には通じなかった。  アンドロイドに子供は外敵だ。奥さんの愛情が移るからな。  そして奥さんも敵になった」 「奴の自殺を放置したのは?」 「死刑を拒否するチャンスを与えてやったんだよ」 「どうしてまた?」 「ジェイクは、高校の時チンピラ達に絡まれ刺されそうになった俺を助けてくれた。だから俺は警官になったのさ」 「……」 「甘いな、俺も」
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