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この夏で二十四になる。
あの夏の日からもう十年経った。
相変わらず、今年の夏も彼女はいない。
あの苦い経験は僕の心に影を作り、
あれから気になる女性に告白することも
告白されるほど女性に親切にしたことも
ないままに女っ気ない毎日を過ごしている。
こういうのは世間的には別名、
「ジョセイフシン」とか言うのかもしれない。
朝。
ごみ袋を手にアパートの階段を駆け下りた。
八月の陽ざしが目にしみて、視線を逸らした時、
一人の女性とバッチリと目が合う。
見たことのない目元の涼やかな美人だ。
「おはようございます」
その人はまるで昨日も、その前の日も、
いつも挨拶しているよね、と言った至極自然な挨拶をしてきたから、同じ言葉を返すのにどきとした。
青い透かし模様のエプロンに白いキャップを被り、
長くて少し波打つ髪を後ろで一纏めにしている。
手には箒が握られていたから掃き掃除をしていたのだろう。
「私、捨てておきましょうか?」
その人は人好きのする笑顔を向け
僕のごみ袋を差した。
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