壱 夜に閉じた心

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「あ、いや、でも」 「今日、うち、掃除当番なんです。 お急ぎみたいだから、遠慮なく」 その人はにっこりと笑み、 僕からごみ袋を引き離す。 「あ、うち、今日から開店します。よかったら」 彼女はエプロンの右ポケットから名刺サイズのカードを一枚取り出すと僕の手に握らせた。 「いってらっしゃい」 鈴の鳴るような声でその人は言うと、 後ろにあるごみ捨て場へと行ってしまう。 ほっそりとしたその足はサンダル履きで 踵は透き通るように白かった。綺麗だと思った。 カードを見ると、レストラン&喫茶ノスタルジアと書かれてあった。眺めていたらカランと鈴の音が鳴った。ハッとして音の先を見る。彼女がレトロ風な建物に入って行くのが見えた。入り口に赤く小さな屋根がついていて、軒先にピンクや青や紫の朝顔が咲き乱れていた。
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