壱 夜に閉じた心

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「もしかして~、彼女が昨日泊まった、とか?」 僕は開いたパソコンで朝一のメールチェックをしながらため息をついた。如何せん、彼女は向かいの席で僕の表情をじっと観察してくるから困る。今朝の前川さんは嫌いだ。仕事がやりにくい。 「その顔は違うか…じゃあ、一目惚れした、とか?」 「違います!」 思わず大きな声が出て、 自分でもびっくりして、目を伏せた。 「図星だ、その顔は」 黙ってしまった僕に前川さんは肩までのストレートヘアの毛束を形の良い鼻と口の間に乗せて、悪戯そうな目を向けて来た。 「一目惚れかぁ~、良いね~、脇田君でかした!」 「でかしたって」 前川さんは綺麗で仕事もバリバリとやる人で、 豪快な性格の三児のお子さんのお母さんでもある。
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