壱 夜に閉じた心

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「どんな見た目?背は?何歳?どこに住んでるの? 家事は得意そう?結婚前提?」 お昼休憩中、三個目のいなり寿司をぱくついた前川さんからカップ焼きそばを食べていた僕は覚えきれないくらいの質問攻めをされていた。 「あの」 「何?」 「前川さんて、僕のお母さんでしたっけ?」 「違うけど〜、気になる木」 「…」 前川さんはバツイチだ。 前の旦那さんが超がつくほど浮気者だったらしく、三年前に自分から離婚届を叩きつけたらしい。旦那さんの経営している会社の経理をしていたらしいから、その会社も退職して、うちの会社に転職してきたという。体格の良さから肝っ玉母さん的な存在として経理部の中でも頼りにされている人だ。だからと言って、仕事以外の相談を僕は前川さんにするつもりはない。ここははっきりと断らないと。 「なら放って」 「今度紹介してよ?」 「無理です」 「何でぇ?」 「紹介するほど、知り合えてません」 「ほらやっぱり、惚れたんじゃん」 「…」 僕は決まり悪くなってズルズルと焼きそばを啜った。前川さんはラップに包んだいなり寿司を一個僕の前に差し出し、ニンマリと笑った。 「あげる。恋は持久走よ。スタミナ付けて」 「…」
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