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「来ちゃった」
そう言って前川さんがその週末の日曜日に僕のアパートの前にいたから、腰が抜ける程に驚いた。
「お母さんじゃなかった、ストーカーだ」
「おい、偶然だ」
前川さんは僕のボケにツッコむ。
ノリはいい人だ。
後ろに手を繋き合った三人の少年を連れている。皆、僕を誰だこの人というようにボケーっと見上げている。
「うちの三兄弟。いっつも家に閉じこもってゲームばっかりしてるから、たまには近くに散歩連れて行こうと思って歩いてたの。ご近所だったなんてさ、もしかして運命?」
僕は苦笑いをした。一番上らしき背の少年が前川さんの長Tシャツの袖を引っ張る。
「お母さん、もう歩けないよ」
「母ちゃん、帰りたい」
「ママ、お腹空いた」
三人の少年は同時に喋った。
誰かのお腹がグゥと鳴り、前川さんは困り顔をした。
「だから言ったのよ、朝ちゃんと食べなさいって」
カランと鈴の鳴るような音がした。
僕はハッとあの人の声がしたような気がして、
何気なく振り返り、あの人の店の方を見ると、
あの人がちょうどお店の看板を手に中から出て来た。
ゴクリと生唾が出る。
いつもなら見なかったふりをしてそそくさと通り過ぎ、駅前の商店街のコンビニや飲食店でテイクアウトをして、済ませてしまう昼飯を今なら変えられるかもしれないと思った。
「あの、良かったら、昼飯しません?」
「へ?」
僕は彼女の店を前川さんに指し示した。
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