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弐 あけぼの
「いらっしゃいませ!」
硝子製の扉を押して店内に入ると、あの人がいた。
あの時と同じエプロン姿でテーブルを拭いていた。
背の高い男性が厨房にいて、顔を上げた。思慮深そうな男前だなぁと思う。何となく顔が彼女に似ている。
「お兄ちゃん抱っこ!僕ボタン押したい!」
一番下だと思われる男の子が言うから、何事かと思ったら、店の入口に白い箱型の食券売機があった。
「こら、康太。ママが買うから」
と前川さんが言う前に僕は足元にすり寄って来た
その子を抱きあげた。
「いいですよ、僕が払います」
僕は他の注文を皆に聞いて、一万円札を入れて康太君に購入ボタンを押させてあげた。彼は嬉しそうに笑い、お兄ちゃん、ありがとうと言ってくれた。
「どういたしまして」
こんな小さな子供と話したの、いつぶりだろうかと思いながら、彼を下ろしてあげると、彼はたたたっと厨房にいる彼女の方へと走っていた。彼女は僕等のやり取りを見ていたようで、目が合うとニッコリと笑ってくれた。
その笑顔は爽やかでやっぱり朝顔みたいだと思う。
朝露に濡れても凛として咲く美しい人。
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