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「お願いちます!」
「ありがとう。今、お水をお持ちしますので、
好きなお席に座っていてね」
優しく微笑んだ彼女は康太君から
食券を五つ受け取ると、男性に声をかけた。
「オーダー入ります」
「了解」
男性は食券を見ると、てきぱきと料理を作り始めた。
彼女も一緒に手伝っている。二人のチームワークは無言の中で行なわれていた。息の合ったコンビネーションに、何となく似ている顔。二人はもしかして…
「あの二人、美男美女だね。夫婦かな?」
僕の心を代弁するように、向かいに座った前川さんが言ったから、驚いて真正面を向いた。
「ねえ、なんとなく、わかっちゃったんだけどさ」
「何がですか?」
僕はさっきから落ち着かない気持ちを鎮める為に
何度もお冷を口にした。
「脇田君が一目惚れした彼女って、あの子?」
前川さんは噎せてしまった僕に微笑んだ。
「わっかりやす!それでは、応援してしんぜよう」
「いや、何言ってるんですか、
余計な事しないでくだ」
「あ、認めた」
「いや、その、これは違っ」
「脇田!」
「はい」
「もしその気がないなら、私がアプローチするよ」
「は?」
「勇気出しなさい。
黙ってみてるうちに誰かに盗られちゃうよ?
私みたいに」
眼力と説得力がすごくて固まっていると入口のチャイムが鳴り、スーツ姿の男性客が二人でやって来た。彼女は満面の笑顔で出迎えて親しげに何か話している。常連なのだろうか。
手にしたグラスの水がやけに冷たく感じられた。
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