百物語のかわりに

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 怪談は長すぎる。一言で、怖いものを思いつくだけ言おう。  中二の夏の宿泊研修。  青少年の家の薄い布団の上で、そう言ったのはケンジだ。  いやだ、と言ったのは、ナオキ。  怖いのかよ、と言ったのはリョウ。  そう言っといて、何か起きたらリョウが真っ先に逃げんじゃね、と言ったのはタクヤ。  うっせえ、じゃあ電気消すよ、その方が雰囲気出るじゃん、とリョウが言い、何か言いかけたナオキも諦めて、部屋の中は暗闇になった。  四人の息を吐く音が一度聞こえた。  ケンジが言った。「じゃあ、俺から。……幽霊」 「いきなりそれかよ」「余計なこと言うなって。どんどん言え。時計回り」 「じゃあ……心霊写真」 「お化け」 「出刃包丁」 「お、変化球」「いいから、次」 「目に何かが刺さる」 「うわあ」「いちいち反応すんな」 「怖い夢」 「土佐犬に齧られる」 「お風呂の水がどす黒い」 「スマホに着信が200件」 「血」 「サイレンの音」 「剥がれそうで剥がれないかさぶた」 「耳の中から音」 「虫が入ってる」 「……合わせ技もあり?」「これからはだめ。次」
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