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二人の背中を追って部屋に…
え?
え?
なんで?
何ここ。
すげー広いところ。
どこ?
壁の両端には柱みたいな…
そこにロウソクの明かりが灯ってる。
ゆらぐ明かりに照らされた回廊のよう。
孤独のグルメのあの人みたいに立ちすくむ。
向こうの端は、
300メートルはありそう。
隣の部屋はこんな広い…
わけない。
これが帝国の科学力か?
空間をどうにでもできる技術?
壁抜けなんて簡単にできんるだから、
空間なんて、どうでもなりそうだ。
100メートルくらい先にいる、
シズさんと姉。
大理石?
みたいな床をおれは走って行く。
「やっと来た…
(シズさん、ここで一呼吸)
ようこそ、旗艦 シズへ。」
女優みたいな、
立ち姿、
声でシズさんが言う。
芝居がかってない?
旗艦…シズ?
地球を包囲してる艦隊の旗艦?
戦艦に名前。
そりゃそうか。
次期、帝だもんな…
シズ記念館とか、
シズロードとか、
シズバーガーとか、
シズ誕生日は祝日とか…。
帝国にはいっぱいあるんだろうな。
もっとびっくりして欲しい…みたいなニュアンスのシズさん。
ん、わかった。
びっくりしたフリする。
「わー。
すごーい。」←棒読み。
とか、言ってみる。
ちょっと不満げなシズさん。
バレてる?
しかし、
あれだ。
隣の部屋は帝国の戦艦につながってたのか。
そりゃ姫殿下がアパートに住むわけないか。
おれが、
そんなに驚かないのは、そんなこと簡単にできそうだから。
ちょっと待てよ…
あの穴から覗いてたのって…
もしや、どこからでも覗けたのか…
変なとこ見られなかったか?
鼻ほじってるとことか。
明かりに人影。
壁のエンタシスのような柱の陰から現れた女性…。
お手本みたいな女教師スタイルしてるけど、
シゲちゃん…じゃなくて、
シオン兄さんをよく指名してたお客様じゃなかったっけ?
外国の方のお客様は珍しいから…
間違いないと思う。
お店の時はコスプレチックな服を毎回、着て来店された。
「トモヤ様、
……初めまして…
メゾピアノと申します。
シズ殿下の教師をしています。」
うそーん。
おれの大好きなガンダム 08小隊のアイナについて、熱く語り合ったでしょうに。
そう言えば、シズさん、
アイナ サハリンに似てるかも?
「初めまして…?
ん?
シゲちゃん…」
チッと舌打ちしたメゾピアノさん。
それ、触れちゃいけないことなんだ。
メゾピアノさんは長いからピアノさんと呼ぼう。
ピアノさんが小説をシズさんにお土産にしたのか…
多分そうだな。
しらっとしてるけど、
この騒動の重要参考人だ。
「はい。
よろしくお願いしますね。」
含みのある笑顔のピアノさん。
「とぉーもぉーやぁー。」
随分と弱々しい声を出して、おれの背中に隠れる姉。
頭が出てるから、あんまり意味ないでしょ。
「何? これ? どこなの?
部屋が…
怖い。」
姉はガチャガチャだけど、
幽霊とか、自分が理解できないことには、からきしダメ。
旗艦シズの件はきっと理解できてない…って言うか、
怖すぎて聞いてないか。
ちょっとまて。
わ!
これ?
姉の旦那さんの可愛いとこって…
「姉ちゃん、大丈夫だよ。
これはイリュージョン。
マジックみたいなもんだから。」
科学が極まると、魔法と見分けがつかないって言うじゃん。
「マジックか…
なんだ。
そうだよな。
こんなこと現実にありゃしないよな。
はははははは。」
姉はバツが悪そうにしてる。
「トモヤ、ところでだ。
あのシズちゃんって何者だ?」
姫殿下をちゃん呼び?
大丈夫?
「うーんとね、
ざっくり言うと、
外国の貴族の人だよ。」
「合気道かなんかやってるぞ、あれ。
私を簡単に動かした。
かなりの達人だ。
勝てる気がしない。」
そうなのか…
姉より強いのか…
あんな可愛い顔して…
やっぱりただ者じゃない。
だいぶ通常運転になった姉、
「トモヤ、
本題だ。
すげーとこの、
貴族の人が婚約者って、
なんでそんな、ぶっ飛んだ展開になってるんだ?」
「それは…」
何て説明しようか…
SF的なことは伏せて、
何かテキトーにごまかさないと…
「お姉ちゃんさん。
私から説明します。」
シズさんのよく通る声。
「どんなに遠くても、
会いたいと思える人がいます。
会いたいと思う気持ちに距離は関係ありません。
世界が変わるような人に出会えたことがありますか?
私はトモヤに出会えました。
私の生涯をトモヤと一緒に過ごしたいと思っています。
この宇宙、どこを探しても、トモヤほど心を動かされる男性はいません。
たまたま遠くにいただけのことです。
トモヤからは結婚の承諾は得ていると聞いています。
お姉ちゃんさん、
どうか、ご理解いただけないでしょうか?」
おれ、承諾したっけ?
おれの思いとは関係なく、物事は進んでいる。
この世界の安定のためには、
おれは、
どうする?
状況は転がる石のように。
「シズちゃん、
こいつはね、
離婚してるんだよ。
なんの取り柄もない、平凡な男。
離婚歴のある、道に転がってる小石みたいな男がいいの?」
そこまで言うか?
弟だぞ。
「お姉ちゃんさん。
トモヤは、
小石ではありませんよ。
………離婚のことは聞かされております。
それは、
私と出会う前のことです。
それが何か関係ございますでしょうか?
結婚とは、
互いの気持ちが大事じゃことでは、ないでしょうか。
遠い旅をして、私はここにいます。
トモヤを迎えに来ました。」
「おや、
迎えに来たとは…
トモヤを連れて行く気かな?
それはダメだ。
私が…
トモヤに会えなくなるじゃないか!」
かっかっかっかっ…ってエコーが聞こえるほどのデカイ声で姉が吠えた。
わっ!
おれは会えなくてもわりと全然、平気だ。
苦手だし。
おっかないし。
姉ちゃん、もしや…
ブラコンなの?
にっこり笑ってるシズさん。
「トモヤと私が夫婦になったら、
お姉ちゃんさんは、
私のお姉ちゃんさんになります。
家族です。
家族には会えるのがごく普通のことです。
念話スマートフォンと、
(念話スマートフォンっていうのは、光通信でも、光の速さだと届くのに3万年かかる。
念話は、人の思いを言葉にする通信機器で、距離に関係なくタイムラグなしに会話ができる電話のこと。)
恒星間連絡船のとても速い船を、地球の軌道上にいつでも待機させます。」
「あれか!
飛行機をすぐ飛ばせるようにいつでも空港に待機させておくってことなのか?」
姉にはきっと意味が伝わらないと判断した、シズさん。
そんな顔をしてる。
「はい。
そうです。
会いたくなったら、
いつでも私の国へいらしてください。
大歓迎です。」
「そうか。
それならよし。
トモヤ、結婚しろ。」
すげー笑顔の姉。
やっぱり姉からは逃げられないな。
「お姉ちゃんさんの承諾を得たことですし…
トモヤ、ドーセイというものをはじめましょう。」
あー。
きたきた。
控えめに見えて、グイグイ押してくるタイプ。
きっと、そうじゃないかと思ってたんだよな。
そんなところはアヤノに似てるか…。
アヤノは仕事だったから、
グイグイだっんだよな。
シズさんに自由にならないものなんてなさそうだし。
そうやって生きてきたんだもんな。
「シズさん、
同棲って、
何のことなのかわかってるの?」
え?って顔になるシズさん。
「メゾピアノ…ちょっと。」
シズさんは柱の影まで走って行って、
ピアノさんとコソコソ話してる。
また走って戻ってきた。
「わかってます。」
…さっき知った顔してる。
顔が赤いし。
「どっどっどっ、ドーセイしちゃいます!」
無理してるなこれ。
おれと住んだら、
嫌気がさすかな?
そうすれば帝国に帰るかも?
そうするか。
「おれはここで同棲するのは嫌だよ。
おれの部屋でなら、
同棲を許可します。」
引っ込みつかなくなったシズさん。
「わかりました。
私はトモヤの部屋でドーセイします。」
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