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10
「じゃ、
シズちゃん、
トモヤをよろしく頼む。」
姉ちゃんはすっかりシズ派閥になってる。
『お姉ちゃんさんは、家族です』にすっかり絡め取られた。
仕事もいいけど、
早く子供作れ。
って、いつも言いたいけど、
きっとシメられるから言わない。
シズさんの旗艦から出てきたおれたち。
外廊下。
おれは隣の部屋のドアを開け閉めして、
すげーな。
どーなってんだろ?
って、やってたら…
ローキックしてくる姉。
不意打ち…
ちょっと痛い。
「帰るぞ。
またな。
もう、逃げるなよ。
へへへ、
逃げられないか…
シズちゃんの連絡先、交換したからな。」
シズさん…スマホ持ってるの?
って、思ったら、ガラケー。
ん?
なんか笑える。
すげーテクノロジー持ってるのに、ガラケー?
でも、あのガラケーは、
きっと何かあるに違いない。
見たことない形だし。
「じゃね。
姉ちゃん。」
「おう、
同棲楽しめよ。」
かなり強めに背中を叩かれる。
背中に紅葉の手形がついてるだろうな。
シズさんは姉に手を振ってる。
いい姿勢で。
そして、手の振り方、素敵だ。
慣れてるな。
そりゃ、そうか。
姉はがさつに手を振って、
おれに満開の笑顔して帰って行った。
台風が去ったみたいな安心感。
よく、あれでランウェイ歩けるな。
仕事の時は別人格みたいな感じだもんな。
キラキラマシマシ。
涼し気な目元、
長い髪の毛をかきあげたりして、
キレのあるポージング。
スーパーモデルと言われるだけはある。
仕事にプライドを持ってる姉はうらやましくもある。
仕事か…
おれもちゃんした仕事探さなきゃな。
「トモヤ…。」
気配を殺して、
おれのすぐ隣、
耳元で。
「わっ。
びっくりした。」
「ふふふふ。
面白い。」
笑ってるシズさん。
すごく楽しそう。
「姫殿下…
失礼かとは思いますが、
敬語…わかりますか?
これからは、
敬語なしの名前は呼び捨てても構いませんか?」
「それは、
あの小説のような言葉でトモヤが話して、
私をシズと呼ぶってことですか?」
「はい。
そうです。
殿下。」
手を握られた。
小さくて暖かい、手だ。
「よろこんで。
ぜひ。
私、
トモヤにシズって呼ばれたかったんです。」
「うん。
よかった。
敬語の毎日は疲れるから…。
よろしくね。
シズ。」
「わー。
うれしいな。
うれしいな。
シズって呼んでもらった。」
子供みたいによろこんでる…
これからは心の中でもシズと呼ぼう。
「じゃ、シズ、おれの部屋へ…」
おれはドアを開けた。
正座して、お茶を飲んでるピアノさんがいた。
歌舞伎揚げ食べてる途中。
横目で、
「殿下、お先に失礼してます。」
「メゾピアノ…
どうして?」
その前に、おれに挨拶しとくべきだよね?
おれの部屋で勝手におれの歌舞伎揚げ食べてるし…
「あっ、
トモヤ…
いや、
トモヤ様。
失礼しています。」
ピアノさんは、
きっと、姉と一緒で、仕事の時は別人格なんだ。
「ピアノさん、
まさか…
一緒にここに住むつもりじゃないですよね?」
シズと二人になりたいワケでもなくて、
邪魔って言ってるワケでもない。
女性二人いたら、
おれ、
居場所なくすでしょ。
自分の部屋じゃなくなるよ。
「そうよ。
メゾピアノ、
私とトモヤを邪魔しないで。」
わっ、
シズはポジティブモンスターか…
そっちに取るか…。
ピアノさんは、
ニヤニヤして。
「トモヤ…さま。」
あっ、今、トモヤって言おうとしたな。
「ピアノさん、
トモヤでいいよ。
敬語もいらない。
これからは、
ホントのピアノさんでいいから。」
ピアノさんの顔つきが変わる。
お店にいる時のピアノさんだ。
「だから、トモヤ…
好き。
シゲ…じゃない。
シオン、ぶほっ(おれと笑うツボが同じ)のお店で、トモヤを見た時はびっくりしたわよ。
あの、トモヤがいるって!
(ウソ。トモヤのほぼストーカーみたいなことをしてるのは、シズ殿下にもトモヤにもナイショ。)
シオンに会う前にトモヤの小説は読んでて、
日本にいたら、
どこかで会えるかな?
なんて…
たまたま行ったホストクラブで、
たまたま指名したシオンがトモヤの知り合いだって知って、
びっくりしたわ。
トモヤが入店するって聞いて、
ホストのトモヤなんて…
エヴァンゲリオンにガンダムが友情出演するみたいなものよ。
そりゃ、通わなきゃ。
萌えた。
萌え尽きたわよ。
トモヤ、
あなた、
サイコー!
アイナ、好きなのサイコー!
…
あっ、
シズ殿下。」
仕事モードに戻るピアノ←もう面倒だからピアノ呼び。
「メゾピアノ…どういうこと?」
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