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「シズ殿下…
……
とても…
言いにくいのですが…
私はトモヤの『おっかけ』をしてました。
休みの度に地球へジャンプしてたのは…
トモヤに会いに…
ファンなんですよ。
すっごく。
トモヤの小説が大好きなんです。
私にとっては、会いに行けるアイドルなんです。
トモヤのことを男性として好きなんじゃないので…
多分…
心配はいらないです。
はい。
多分…。
姫殿下の邪魔はしませんよ。
私は私のやり方で、
トモヤをゲット…
あっ…
いや、
そうではなくて。
小説を書かせたいなって…
姫殿下もトモヤの新作を読みたくないですか?
読みたいですよね。
私はもう、ガマンできないほどに読みたいんです。
もう何年待たされているか…
もう、新作読んだら、きっと、天国へ召されてしまうかもしれないほど、待って待って待ちわびて、
おっかけみたいな変なファンになってしまったんです。
トモヤ、
なんでもいいから書きなさい。
もう、習字でも絵でも4コママンガでも何でもいいから、
私に書いて何かください。
お願い…」
マシンガンのように言葉が出てくる。
「メゾピアノ…
あなた…
ホントはそんな性格なのね。
飼い猫が皮をかぶってる…?
なんでしたっけ?
飼い猫に手を…
まぁ、いいわ。
とにかく、私とトモヤの邪魔はしないで。
やっと二人きりになれるのよ。
一つの布団で眠るのよ。
トモヤのイビキを聞きながら、夢をみるの。」
なに?
この状況…
二人の告白はなかなか止まらなさそう。
「二人とも冷静になって。」
シズとピアノは声を揃えて、
「トモヤは黙ってて。」
はいはい。
黙ってますよ。
おれはしばらくイヤホンをして、You Tubeなんかみてた。
「ちょっとトモヤ…
聞いてるの?」
二人でおれのイヤホンを引っぺがして…
「もう、何なの?
ケンカするなら、出て行って。」
二人は黙った。
よしよし。
「小説は書くよ。
どんな内容になるかわからないけど。
ピアノ、
それを君にプレゼントする。
それでいい?」
「うん。」
え?
なにその顔…
照れてる。
美人が照れるとなんだか切なくなる。
「ピアノ…
きれいだね。」
ピアノは部屋の隅までモゾモゾ移動して、
ぽーっとして、壁を眺めてる。
シズはおっかない顔をして、
「何?
それ?
ピアノだけずるい。
キレイ?
ずるい。
私、言ってもらったことない。
プレゼントはクジラのタレをいただいたから、
私の方がちょっと勝ってるからいいとして…」
「シズは、かわいい。」
おれ、ジゴロみたいじゃんか。
ピアノは、ぽっーとしながら部屋を出て行った。
隣の部屋から、旗艦に戻ったんだろう。
「さぁ、
トモヤ…
二人きりになりました。
ドーセイをはじめましょう。
その前に、かわいいって、もう一回言ってくださる?」
「そんなにいつも言ってたら、言葉の力が軽くなるんだよ。
日本には言霊って言葉があるんだけど、
言葉には力が宿ってるんだ。
シズはもう充分にかわいいから…ね。
あっ、言っちゃったじゃんか。
もう。」
「へへへへへ。」
嬉しそうに座ってる。
シズは可愛い女の子なんだ。
「そろそろお昼だね。
何か食べる?
作ろうか?」
シズは目をキラキラさせて、
「トモヤが私に?
何か作ってくれるの?
私、ラーメンという食物を食べたいな。」
ん?
ラーメン…チャルメラしかないけど、
卵を入れて、白菜入れて、
豚肉少し入れれば、
とてもおいしいチャルメラになるな…
「姫殿下に、ラーメン…
いいの?
庶民の食べ物だけど…。」
「私は今、
帝国のシズではありません。
何も肩書のない、シズとしてここにいます。
トモヤは、
ずっとトモヤでいたでしょう。
小説家というトモヤではなくて、
その肩書さえも、
自分のほんの一部の要素のように。
私もそう生きたいんです。
将来は帝になる身ですが、
それだけの人生は嫌です。
ずっとトモヤに恋をしている私でいたいです。
私の気持ちは迷惑ですか?」
「おれ、
まだシズをよく知らないから…。
何て言えばいいのか…
でも、
ちょっと話してわかったのは、
シズは良い人だってこと。
何でおれのことなんか、
そんなに好きなのかわからないけど、
シズの気持ちはとてもうれしいよ。
じゃ、ラーメン作ろうか?」
ちょっと話の核心をずらしてみる。
好きか嫌いか…
嫌いではないけど、
好きって気持ちとは違う気がする。
アヤノを思う気持ちが灰の炎のように、胸にくすぶってる…
の、かな?
さて、
シズは、
興味津々におれの料理…
しかし、
チャルメラを作るのは料理とよべるのかな。
白菜はね、野菜の王様。
優しい出汁が出るんだよね。
そこに豚肉の油…
ゆがくとパサつくけど、
そこは麺の柔らかさのアクセントになる。
卵はお湯が沸いたらすぐ入れてポーチド玉子的な感じで。
玉子入ってるだけだ、おれにはごちそうになる。
簡単に作った二人分を一つはどんぶりに一つは鍋のまま。
一人暮らしだからどんぶりとか一人分しかないから。
小さなテーブルで向かい合い食べる。
「シズ、ラーメンは音をたててすすって食べるものなんだ。
マナー違反じゃない。
空気と一緒に吸込んで食べることで、おいしさは倍増するんだ。
お手本するから真似してたべてみて。」
ずるずるずるずる。
「まっ、
音をたててたべていいなんて…
素敵ね。」
するするするする。
シズは控えめにすすってる。
「食べ方の教えは厳しかっただろうから慣れないだろうけど、
おいしく食べるには、もっと大胆になった方がいいこともあるんだよ。」
ずるするずるする。
だいぶ上手になってきた。
「シズは天才だ。」
褒めたらすごくうれしそうだ。
「そうだ、
シズ…
あれこれ買い物行こうか?
食器やら、生活用品とか…
一緒に住むには必要なものあるでしょ?」
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