15 ユイ

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15 ユイ

トモヤはずっと窓の外を見ている。 秋のゆっくりした風が吹き込む教室。 まとめられ損ねたカーテンが風の形になって… 窓際のトモヤに光と影を。 トモヤは何を見てるのかな? トモヤを、見てる私をどう思ってるのかな… 私は板書もしないで、 見つめてる。 あっ、こっち見た。 外を指さして、 すごい笑顔。 わたしも笑ってみる。 私もそれを見てたんだって勘違いしてるみたい。 トモヤは私みたいな目立たない女の子にもとても優しい。 困っていると必ず声をかけてくれる。 何を話していいかわからない。 だから声が小さくなる。 わたしはトモヤの秘密を知ってる。 学校のみんなは知らない。 人気者のトモヤが、もっと人気者になって、わたしのことなんて見えなくなるかも… 今も見えてないかも知れないけど。 だから誰にも言わない。 トモヤは… 小説家。 前からトモヤのことは素敵だなって思ってた。 昼休みとかトモヤは小説を読んでる。 何を読んでるのか聞けなかったけど、 放課後、こっそり机の中の小説のタイトルをみたりして、 わたしもその小説を読んでみた。 同じ小説を読んでるだけで幸せな気分になった。 トモヤと同じ世界にいられる気がする。 それから、わたしも小説を読むようになるんだけど、 昼休み、わたしも小説好きなのアピールしたりして… 小説の話をトモヤとする二人だけの時間… もっと増えたらいいなって。 毎日、本屋へ行って、いろんな小説を物色するようになった。 そんなことを毎日続けていたら… 【新人賞 受賞 高校生小説家】 ポップが目に入る。 へぇ、 高校生なのに小説家っているんだ…。 そんなに気にもとめないでその小説を買った。 帰って読み始めると、 止まらない。 この物語、 面白い。 笑い、泣き… わたしの情緒をどうにかさせるような物語。 猛烈なファンになった。 他にこの作者の小説は… 小説家の名前はトモヤ。 著者近影をみる。 一撃をくらうってこんなこと。 電気に打たれたみたいな衝撃。 トモヤだ。 この物語はトモヤが書いたんだ… トモヤの頭の中を見てしまったような… トモヤを全て知ったような気持ちになる。 トモヤを独り占めしたい。 わたしの中で黒い炎が燃え始めた。 わたしの姉はとても明るい。 みんなから好かれてる。 友達も多いし、美人。 わたしとはまるで正反対。 姉は芸能界に興味があって、 オーディションを受けようとしていた。 「ユイ…オーディション付き合ってよ。 ユイの分の書類も一緒に送ったんだけど、 私と、ユイは一次選考に受かったから…」 「無理よ。 私なんか…」 姉は、 「その、うじうじした性格、変えたくないの? 変われるいいチャンスよ。」 乗る気にはなれなかったけど、 いざオーディションしてみると、 別のわたしが出てきた。 はきはきと受け答えできる。 笑顔で笑えるわたし。 ダンスも歌も水着もなんでもできる人格。 姉は二次で落ちたけど、 わたしはそのオーディションでグランプリをとった。 仕事が忙しくなって、あまり学校へは行けなくなった。 トモヤに会いたい。 仕事の終わり、 事務所の車から見る街の景色。 この半年でわたしの世界は変わった。 テレビや雑誌、 人にみられる仕事。 ありがたいことにファンも増えた。 でも、高校の同級生には気が付かれてはいない。 芸能人のユイと、ほんとのユイはまるで違うから。 今日は仕事がオフで学校へ行けた。 トモヤのまわりには友達が群がってる。 「トモヤ、ユイって可愛くないか?」 私の載ってる雑誌を開いて見せてる、同級生A。 「うん。 ユイってかわいいよね。 好きだな。 守ってあげたいって言うか… おれ、ファンなんだ。」 トモヤが言った。 え? ほんとに… わたしのこと好きなの? わたしの中の黒い炎が燃え上がる。 もっと有名になって、 トモヤにもっと好きになってもらわなきゃ。 どんどん仕事が忙しくなり、 それきり学校へは行けなくなった。 卒業式の日。 わたしは補習を受けて、なんとか卒業することができる。 わたしの仕事は学校に内緒にしてもらってある。 それでも気が付かれないのは… 本物ユイである、わたしと、テレビや雑誌のユイはまるで違ってみえてる。 ほんとのわたしはこっちなのに。 「ユイ…久しぶりだね。 元気だったの? 何か… 大丈夫?」 隣の席のトモヤは、 学校の誰もわたしのことなんて気にしないのに、 気にしてくれてる。 そうよね。 わたしのこと好きなんだから、当たり前のことかな。 「大丈夫。 トモヤは? 元気だった?」 「ちょっと忙しかったこともあったけど、 大丈夫。」 そう言えば、トモヤのお姉さんと会った。 モデルのマイコさん。 言葉はぶっきらぼうだけど、 とても優しくしてくれた。 「ユイちゃん。 あたしの弟と同い年なのか… あたしの弟がファンだって言ってたよ。 サインもらえるかな? 弟の名前を書いてもらえたらうれしいんだ。 弟はトモヤって言う。 よろしくお願いしたい。」 サインを書きながら、 マイコさんは、 「トモヤは目玉焼きが得意なだけで、 他には… 何かユイちゃんみたいな取り柄があったかな… 毎日、なんだか机に向かってパソコンやってるけど、 あれはゲームかなんかしてるんだろうな。 最近、あたしが仕事忙しいから、 学校から帰って、料理作って掃除洗濯して… なんか主夫みたいな生活してる。 遊びたいだろうけど、 あたしが仕事に出ちゃってるからさ。 トモヤがモデルになったら?って言ったから、この仕事してるんだよ。 ああ、あたし、喋りすぎたね。 ごめんね。」 マイコさんはトモヤのこと大好きなの伝わってくる。 いつかはマイコさんをお姉さんって呼ぶ日が来るのかな…。 卒業式に会ったきり、トモヤとは会えなくなった。 雑誌の取材で、好きなタイプの人は? なんて言われると、 いつも小説家のトモヤって答えてた。 いつか対談とかできればいいなって思ったけど、 それも実現することはなかった。 トモヤは小説を書かなくなり、 新作は読めなくなった。 トモヤのファンサイトに、 もうトモヤは書かないんじゃないか…ってカキコミがあった。 世界中のファンがトモヤの新作を待ってる。 トモヤはわたしが言ったら書いてくれるのかな? わたしは仕事が休みの時には、 車の中からトモヤが出て来ないか待った。 何で連絡を取らないか? それは、 トモヤがわたしのことを好きなの知ってるから、 それだけで充分なの。 チラッとトモヤが見えたら帰る。 もう、それだけで幸せ。 トモヤのファンサイトに、 トモヤ結婚!って… そんなことあるわけない。 わたしが好きなのに他の誰かと結婚するわけない。 トモヤは自宅からどこかへ引っ越してしまった。 わたしは探偵を雇って、トモヤの居場所を突き止めた。 トモヤの隣には美しい女性。 ウソウソウソウソ。 そんな… 何で? わたしを好きだって言ったじゃない。 トモヤを絶対にわたしのものにする。 どんな手段をつかっても。 トモヤに似合う女になるために、女優やってるのよ。 絶対にスターって呼ばれる女優になって、 トモヤを、あの女から奪いとってやる! 今、 わたしはスターと呼ばれている。 トモヤは離婚をした。 でも、 わたしの隣には、トモヤはいない。 どうして? トモヤがホストクラブにいるという情報を探偵がもってきた。 これからは我慢しない。 わたしがトモヤを幸せにするの。
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