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アパートのオーナー社長。
あのヤバめな人には会いたくなかったけど、
行くしかないよね。
壁をすり抜けられたら、もうプライバシーの侵害どころか、
犯罪だもん。
でもね、
おれ、
壁抜け現象は、
あんまり変だと思わなかったんだ。
あのシズさんなら、
そんなこと、
たやすく
できそうな感じがしたんだ。
「おっ!
トモヤ!
おひさしぶりの照り焼き。」
おれ、友達的呼び捨て?
もう、笑わせる気が全力な社長。
気分的に笑えない。
無視ね。
「あのですね…」
あの笑っちゃう現象を説明しようとすると…
オーナーは顔を変えた。
ホントに顔が変わったの。
和田勉みたいな感じなのが
渡辺謙に変化した。
「なに?それ?
どうやるの?
はははははは。」
もう、笑うしかないじゃんか。
「やっぱりなぁ。
あの姫殿下に我慢はできないか…
好きすぎて3万光年飛んで会いに来たんだもんな。
そりゃ、
直接行動しちゃうよね。
よく我慢した方か。」
「顔、顔が…
はははははは←笑いの発作。
隣のシズさんが…はははははは。」
「お、名前で呼び合う仲か…
ファーストコンタクトはなかなか上出来。
おーい、野郎共、
トモヤ確保。」
わらわらと出た来た黒スーツの野郎共に、
おれは笑いながら確保されてしまった。
不動産屋の奥の部屋。
こんな広い空間あったっけ?
8畳くらいの店舗だったはずだけど…
広大なオフィスと言うか…
ホテルのロビーみたい感じ。
そこにでっかいディスプレイがたくさん並んでて、
地球の周りにたくさんの点が点滅してる。
衛星かな?
それにしちゃ数が多いな。
椅子に後手をインシュロックで結ばされて座らされてるおれ。
この状況…映画とかドラマとかでしか見たことないぞ。
「悪いなトモヤ君…
ホントはこんなことしたくないんだ。」
顔が全力で笑ってる渡辺謙。
こんなこと、
したかったったんだよねって顔に書いてある。
ナベケンって名前にする。
「何でおれがこんな目に?」
「説明するから、聞きなさい。
最初に言っておくが、
決定事項については、
君には拒否権はない。
法律で決まったことだ。」
何何何何何何何何??????
とてもこわいこと言ったよね。
「そこのディスプレイが見えるだろ?
監視衛星から割り出した、艦隊の数だ。
ざっと10万隻が地球を取り囲んで包囲してる。」
「艦隊って?
何それ?
宇宙人の?」
ナベケンはヤバめじゃなくて、頭がヤバい人だったのか…
「信じられないだろうな。
私だって信じられなかった。
この現象の始まりは5年前。
自衛隊の宇宙隊の受付にやって来た人がいた。
『小説家のトモヤと会わせて欲しい。
私は3万光年先の星から来た、
ホニャララ帝国の特使だ』
と、
ホニャララ帝国と表現するのは、地球人にはどうやっても発音できないからだ。
最初は頭がアレな人だと、誰も信じなかった。
そこにたまたま、いたのが防衛庁長官。
宇宙隊の視察に来ていた。
実は…
宇宙からの旅人や、移民希望の宇宙人は、結構な人数が地球にいるんだ。
永住してる宇宙人もいる。
気をつけてほしいのが宇宙人という言葉だ。
銀河系連盟的に差別用語に分類されるから、
来訪者と呼ぶように。
まだ地球は辺境の星だから、連盟には入ってはないが、
ルールは守らないといけない。」
「え?
あっ
え?
あっ?」
「なにかの掛け声みたいだな。」
ナベケンは笑ってる。
「質問は全て聞いてから、受け付ける。
黙ってるように。」
軍人か?
そんなニュアンスがするナベケン。
「長官は、
来訪者が日本にも、たくさんいることを知っていた。
もちろんホニャララ帝国のことも。
ホニャララ帝国は、たくさんの星を武力制圧して、帝国を築き上げた。
帝政を敷いたのが今から10万年前のこと。
銀河系を統治してる帝国だ。
帝位は代々、女性が継いでいる。
女系の帝国って訳だ。
帝国が10万年続くってのはとても珍しいことなんだぞ、
武力で人民を抑え込むことは一時ならできるが、
何年も続かない。
善政の帝国ってことだ。
住みよいから女帝に尽くす。
尽くされた女帝は人民に尽くす。
互いにWin-Winの関係ってことだな。
ここからがトモヤ君、
君にとても重要なことだ。
時代劇風に言うと、『耳をかっぽじって、よく聞きやがれ』って話になる。
長官は特使を手厚く迎えた。
失礼は絶対にあってはならない。
あの超帝国の特使だ。
地球なんて、惑星破壊砲の一撃で消し飛ぶ。
使うことはないだろうが、
抑止力になる。
戦争は始まったら終わりだ。
憎悪が憎悪を生んで、虐殺と破壊、降伏しなければどちらかが滅びるまで続く。
そうならないためにもホニャララ帝国は強大な武力を持ってる。
戦わないための超絶武力ってことだな。
代々、女帝は平和主義者だ。
それに、地球のエンターテイメントはこの銀河でも大人気で、
銀河議会で特別保護星に制定されてる。
不可侵星ってわけだ。
その不可侵星を攻撃することはない…
と、思う。
攻撃したら、銀河のたくさんの星が地球を守りに来るだろう。
戦争になる。
地球の、
いや、
特に日本のエンターテイメントは銀河系では、とても貴重なものなんだ。
外貨もたくさん稼いでる。
技術供与やら、レアメタル…
そんな恩恵にあずかってる。
これは特別な人しか知らない極秘事項なので、
絶対に外部に漏らさないでほしい。
漏らしたら…
大変なことになる。
忘れないでくれ。
大体の背景はわかってもらえたかな?」
「その顔が変わるのも、帝国の技術なんですか?」
おれ、すげーつまんない事聞いてないか?
ザSFなあれこれは理解はできても、リアルとして受け入れられない。
「そう…でもないけど、そう思ってくれて構わない。
ここは、トモヤ対策室って呼ばれてる極秘組織。
私が室長だ。
エージェントはたくさんいる。
自衛隊、公安、内閣調査室、もろもろ他の省庁のエリートを集めた、政府組織だ。
ホニャララ帝国への対策がここで決まる。
世界的な問題なんだが、
国連の決議で日本が責任を持ってホニャララ帝国の交渉にあたると決まった。
中にはトモヤを拉致して、有利に事を運べないか…と、画策する国もあるが…
もし、トモヤを誘拐でもしたら、全世界に散らばる帝国の来訪者がその国を滅ぼしてしまうだろう。
その位、君は最重要人物なんだ。
今は地球の中で争っている場合じゃない。
無用な争いを避けるためにも、
この5年、影でたくさんのエージェントが君を守っていた。」
謎が解けていく。
アヤノは…
「アヤノはエージェントだったのか!」
「そうだ。
アヤノ一佐は、イレギュラーな方法で君を護ることになった。
おれは反対した。
でも、聞かなかった。
それは仕事への情熱なのか…
何をもってして、アヤノ一佐をそこまでさせるのかわからない。」
「今、アヤノは?」
「それは君にも言えないことになってる。」
「つかえないな。」
イラッとして暴言を吐く。
アヤノは…
そうだよな。
あんな素敵な女性がおれなんて…
心に残る灰の炎が、燃え尽きようとしてる。
「たくさんのエージェントが、
帝国のテクノロジーをつかって君を護ってる。
君を護るために、帝国はとてつもない技術供与をしてくれた。
日本はあと千年はそれだけで安泰だ。
ありがとう、トモヤ君。」
「おれは何もしてないし、
そんな重要な人間じゃない。」
勝手にしゃべるなってニュアンスでにらむナベケン。
「さぁ、本題に入るぞ。
トモヤ君、
シズ殿下の夫になって欲しい。」
は?
この人は何を言ってるんだ?
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