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さて、 どんな顔をして、シズさんに会えばいいのか… 帝国の殿下でしょ。 勝手に婚約者でしょ。 もう。 どうすればいいの? その頃、 監視を続けていたエージェントたちに緊張が走る。 「背の高い女がアパートへ接近中… 室長、排除部隊を展開させますか?」 ナベケンは吠える。 「ピー国の(好きな国の名前を入れてみて)拉致部隊か? アパートまであとどのくらいだ?」 「速いです。 通常の3倍のスピードで移動してます。」 「部隊の展開急げ。 トモヤに何かありそうなら、実弾の使用を許可する。」 そこに、割り込みの通信が入る。 「アヤノです。 室長、 あの人は… トモヤのお姉さんです。 何があっても攻撃してはいけません。」 「映像を回せ… わっ! すげー美人。 すげースタイルいい。 でも、すげーおっかなそうだ。 排除部隊、 展開やめ、 監視を続けてくれ。」 アパートのドアの前にたどり着いた。 帰りたくなくなると、足がほんとに重くなるんだな。 そして、 あまりにも重すぎる現実。 けーせらせらー なるようになるぅ〜 を、 ずっと頭の中でリピートさせてる。 背中越しに声。 気配を感じなかった。 ヤバい。 このオーラ。 あの人しかいない。 「とぉ〜 もぉ〜 やぁ〜」 来ちゃった。 姉ちゃん来ちゃったよ。 「はぁ〜い。 トモヤ確保。 (首根っこ、つかまれてる) 何で逃げ回ってた? あたしから逃げられるとおもってるんかい? 父ちゃんにちょっといい酒持ってたら、すぐこのアパート教えてくれたぞ。 あんたは、あたしから逃げることは ネバー、できない。 アンダスタン?」 父よ。 簡単に買収されないでくれ。 あー、 めんどくさい。 世界一、苦手な人だ。 おれが美人を苦手な理由を作った人。 姉はガチャガチャな性格をしてる。 ヤンキーだ。 昭和のヤンキーを平成でもやってた。 長いスカート。 ベリーショートのセーラー服。 カミソリみたいな平べったい革の学生カバン。 裏にはもちろん、夜露死苦のステッカー。 でも、金髪にはしなくて、黒髪ロングヘアー。 「何で金髪にしないの?」って聞いたことある。 軽くシメられたけど、教えてくれた。 「黒髪は女の命だ。」って。 そんな姉は、 千葉最強のヤンキーだった。 言えない武勇伝をたくさん聞かされた。 でもね、 弱い者には優しくて、 強いものには容赦なかった。 弟は弱い者じゃないのかな? 姉はおれには厳しかった。 女性には絶対に手を上げるな。 女は男を殴ってもギリギリセーフ犯罪にはならない。 女性には年齢を問わず優しく接しろ。 容姿で女性を判断するな。 困っていれば助けろ。 女を泣かすな… 笑わせろ。 たくさんある。 そんなことを体で覚えさせられたおれは、 女性にちゃんとできているのかな? できてれば、離婚なんて経験しなかったか… でも、アヤノは仕事で結婚したんだろうな… うーん。 だよなぁ。 「トモヤ、 離婚したんだって? アヤノちゃんに何かしたのか? あーん? 泣かせたのか? なんで、そうなった? あ?」 キツめの目が、とてもキツくなる。 あーあ。 姉の得意技。 ハイキック(姉ちゃんキック)が出そうな感じだ。 まだよけきれるかな? 姉のいろんな技を受けるうちに、 おれは防御に関しては天才的なスキルを持っていることを知った。 姉の攻撃をまともに受けて立っていられるのは、おれと姉の旦那さんくらいだろう。 攻撃の力をね、 逃してあげればいいだけなの。 まともに受けようとしたら、大変なことになるぞ。 姉の旦那さんは、おれよりセンスがいい。 もはや、超人クラス。 きっと、スナイパーの弾も当たらないだろう。 弾丸を指先だけで、弾きかえすこともできそうだ。 おれは防御ばかり突出したスキルで、 攻撃スキルはまるでないけどね。 姉の旦那さんに聞いたことある。 姉のどこが好きなの?って、 旦那さんは真面目な顔して、 『かわいいところ』って言ってた。 想像できない。 かわいいところ? おれには見せない姉が存在するのか… 想像するだけで、鳥肌が立つ。 やめとこう。 …ところで、 姉の旦那さんは、有名な写真家。 そして… 姉は… 世界のマイコ。 超絶有名なモデルだ。 背はおれより高い185センチ。 黙ってれば美しい女性だから、モデルは天職じゃないかと思う。 性格はガチャガチャだけどさ。 でも、家事は全てできる。 料理なんて、びっくりするほどうまい。 その他に、 姉の一ついいところは、弟が小説家のトモヤだと絶対に言わないとこ。 一発屋のトモヤの姉なんて言うと、 姉のモデルのキャリアに傷がつくからか。 もしかすると、おれが小説書いてるのも知らない可能性もある。 テレビや新聞、雑誌とかまるでみない人だから。 おれが女だったらよかったのにって、 父がよく言う。 おれも、姉が男だったらよかったのにって思うこといっぱいある。 姉が男ならきっと、 今頃、世界征服も可能なんじゃないかと思ったりする。 「やっぱり、アヤノちゃんに何かしたんだな? 黙ってないで、何か言え… このタ〜〜〜コ。」 なぜにタコ? ハイキックのモーションに入りそう。 殺気が… 殺されるかな…。 姉が踏み込む瞬間… くる。 重めのハイキックが… そこへ… 「こんにちは。 トモヤ。」 シズさんが隣の部屋から飛び出してきた。 壁も抜けられるのに、わざわざドアを開けて。 姉の殺気が消える。 さらに状況は面倒なことになったぞ。 「トモヤ、 この人は?」 おれがシズさんやらホニャララ帝国のことをあれこれ知ったことを伝えられたんだろう。 すごく親しげに、 おれの絶対不可侵領域に入り込んでくる。 つまりはかなり近めにいるってこと。 肩が触れてるし。 ワチャワチャしてないし。 さん付けから呼び捨てになってるし。 この状況… 姉は… 短絡的な思考の持ち主だから… やっぱりおれを睨んでるよ。 おっかない顔で。 「これは姉のマイコです。」 「トモヤのお姉ちゃんさんですか… 初めまして、婚約者のシズです。 よろしくお願いしますね。」 すごく姿勢よくお辞儀をするシズさん。 やはり、姫殿下だな。 品の良さに関心するって… おーい。 婚約者? さらっと言ったよね? こんな状況で言う? もっとさ、 二人で話し合いを持って、 互いの気持ちを確認してからでしょ? ポカンとしてる姉。 我に返り。 「トモヤ… どういことだ? 離婚したばっかりなのに… 婚約者? てめぇ、 アヤノちゃんと別れたのは、この外人と…」 「姉ちゃん、 これには深い事情があってさ。 ちゃんと説明するから…」 ニコニコ笑ってるシズさん。 やっぱりただ者じゃないな。 「立ち話もなんですから、 私の部屋へどうぞ。」 シズさんは背が結構、高い。 おれよりちょっと低いくらい。 姉はシズさんを見下ろして、 おっかない顔をしてる。 シズさんはまるで気にもしないで、 姉の手を引く。 意固地な姉が動くわけないじゃん。 って思ったら、 すんなり連れて行かれた。 どんな技を使った? 帝国のテクノロジーか? おれは二人の背中を追いかけて、シズさんの部屋に入った。
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