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8 シズ
「日本語は難しい!
同じ『あめ』でも、
雨、飴、編め、アメ(米国)、天…
前後の言葉で意味が変わる。
その中で、
自分の心を曖昧に表現して、
傷つけないように、
優しく諭すような…
全部言わなくても、
足りない言葉は自分で補って、会話を完成させるなんて…
何なの?
この言語を作った人達は。
人の心を読みながらの会話を普通にできる日本人は…
とても興味深いわ。」
専属教師のメゾピアノは、
目が悪くないのに、
細めの眼鏡をかけている。
地球の文化が好きすぎて、
ステレオタイプな女教師の装い。
「シズ姫殿下、
トモヤの小説は、原文を読んで理解することで、
彼の言おうとすること、
日本の心に触れることができるのです。
地球の文化で最も尊いのは日本の文化なんですよ。
(ピアノの個人的な感想です。)
足し算の芸術ではなく、
引き算の美学を持つ日本は…
いいですか?
姫殿下、
究極中の究極の物語を理解するのに、
日本語一つ覚えること、
たったそれだけでいいなんて、
簡単なことではないですか?」
彼女は、
そう、
おたく。
日本では、
その道の究極的な極意を会得した者を、おたく、と呼ぶそう。
紙と呼ぶものを初めて見たのは、
紙を集めて綴った『単行本』と言うもの。
メゾピアノの地球のお土産。
この帝都に紙と呼ぶものは、これしかないと思う。
紙の製造方法はメゾピアノから聞いて知った。
帝国全土にも紙と呼ぶものはないかも知れない。
これが木から作られるとは、かなり衝撃を受けた。
地球の人は文明がかなり遅れているとは言え、
こんなものを作れる技術に、素直に尊敬の思いを抱く。
眼鏡を斜めに写した写真の『表紙』と呼ばれる表。
メゾピアノのが言うには、ライトノベルと呼ばれるこのジャンルにこの表紙はとても斬新な試みだったらしい。
だいたいは絵の表紙が多いんだそう。
表紙をめくると、『写真』がある。
この写真というのは動いたりしない。
ずっと止まったままだ。
試しにタッチしても、なにも変化ない。
この文字列を書いた人なのかな?
不思議な服を着て、うつむいてる。
これが地球の人なんだ。
私達、あまり変わらないように見える。
帝国にはいろんな人種がいる。
人型、ケモノ型、ハイブリッド型、機械生命体、いろんな
形の民がいる。
ずっと昔のこと。
初代女帝が即位するずっと前のこと。
私達、人型は遠い星から、星を渡る舟に乗って、銀河系に撒かれた種。
地球の人々もその種から咲いた花なのかも知れない。
最初は、
小説と呼ばれる物語を翻訳機を通して読んだ。
日本語の翻訳機なんてどこにもないから、
メゾピアノが作ってくれた。
メゾピアノは日本語を話せる…
それに…
とても秘密なことなんだけど、
地球の日本に恋人がいるらしい。
彼女はA級ジャンパー。
ハイパードライブなしに3万光年なんてほぼ一瞬で楽に飛べる。
帝星の衛星の生まれのメゾピアノ。
そこは星を渡る船を作った文明とは違った、超古代文明の遺跡がある。
どのくらい昔のものなのか…
どんな人々が住んでいたのか、
まるでわからない。
その遺跡には、
時を司る?
機械的?な何かが…
帝国の科学を持ってしても全て理解することはできない遺構があって、
その遺跡の近くに住んでいたメゾピアノの体に、何らかの物質が蓄積されて、
ジャンプすることが可能らしい。
それは全ての人に現れるものではなくて、ごく稀に現れる体質的な…ものみたい。
ジャンパーじゃない者は、
3万光年先の地球へ行くには
恒星間航行船に乗って、
ハイパードライブを何度か行って、10日の旅になる。
メゾピアノは恋人に会いに、休みの日はほぼ地球にいる。
その恋人は彼女を来訪者とは知らない。
地球の他の国の人と思ってるらしいと言っていた。
知ってしまったら…
その彼はどうするんだろう。
話を小説に戻します。
翻訳機にかけられた物語。
とてつもない衝撃を受けた。
この小説は…
書いた人の心でできていると感じた。
優しく触れる心。
ずっと触れていたい心。
単語と表現の全てを理解することはできなかったけれども、
話の本筋はわかった。
笑えて泣けて、幸せな気持ちになる物語。
メゾピアノに私は言った。
「あなたと出会って、
とても長い時間がたつけれども、
初めて言う言葉があるの。
『ありがとう』
とても素敵な物語を私に教えてくれた。
それとお願いがあるのだけれど…
日本語を教えてくれないかしら?」
私は日本語を猛勉強して、
かなり理解することができるようになった。
アニメーションと言うものもたくさん見た。
小説もたくさん読んだ。
でも、トモヤの小説を超える感動は一つもなかった。
メゾピアノからは、わからない単語や表現をとても丁寧に教えてもらった。
全てはトモヤの小説を原文で読むために。
ようやくトモヤの小説を原文で読めた時に、涙が出た。
トモヤの心にトモヤの言葉で触れることができた。
会いたい。
写真を見る。
最初に見た時とはまるで違う気持ちになる。
触れることのできるトモヤは動かない。
話さない。
こっちを見てくれない。
トモヤに会いたい。
どんな声で話すのだろう?
私にどんな言葉をかけてくれるのだろう。
トモヤのことばかり考えている。
私はおかしくなってしまったようよ。
メゾピアノに相談した。
「姫殿下…
時が来ましたね。
それは恋というものです。」
私に恋が…
それも遠く離れた地球に…
どうしようかしら…
まずは元老院を動かして、私の地球行きを認めさせる決議を…
帝は許してくれるかしら?
そんなの関係ない。
私はやる。
私はトモヤに絶対に会う。
そして、絶対に私の夫にする。
今まで、空っぽだった私に、
トモヤは心を埋めてくれた。
3万光年なんて、すぐそこよ。
でも、私の地球行きが決定したのは、地球時間で7年経った後だった。
特別付録
ナベケンのグチ。
そりゃ、すぐには無理だよ。
次期、女帝でしょ。
国賓ならず地球賓だよ。
はいはい、いらっしゃいみたいなことはできないでしょう。
だいたい地球賓って何だよ。
今までそんなことやったことないよ。
国連は責任取りたくないから、
日本に一任するなんて、身勝手すぎる決議出して、
気弱な国連大使と、総理はニヤニヤして、任せてください!なんて簡単に言っちゃって。
アホか?
うまく行ったら、いいとこもらっちゃうぞ…みたいな国ばかり。
お下品な国ばかりですね。
あー、もー。
大変だったんだぞ。
対策室立ち上げて…
でも、みんなよくやってくれた。
トモヤと結婚するって言う、ミラクル手段使ったアヤノの気持ちを考えると…
おれはもう、泣けて泣けて。
ほんの少しでも、トモヤと一緒にいたかったんだよな。
別れる時が来るのはわかってても、トモヤの妻になりたかったんだよな。
トモヤ法の抜け穴を見つけ出して、婚姻届を受理させたのは、
チーム全員で取り組んだ。
しかし、
トモヤ、ムカつく。
いいヤツだけにムカつく。
でも、姫殿下とうまくやって欲しい。
でも、ほんとはアヤノと…
はいはいグチでしたよー。
ちゃんと仕事しますよ。
給料分はね。
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