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「ここは一体どこなのでしょう」
香りの良い花が咲き、心地好い風が吹き、小鳥の囀りも聞こえます。
女王様の他には誰もおらず、
なぜか建物も無いのに、女王様の好きな深碧色の扉が一つ、目の前に立っていました。
「お入りにならないの?」
驚いて声のする方を向くと、いつの間に現れたのでしょう。
真空色の着物を着た女の人が一人、にこにこしながらこちらを見ています。
女の人の前にも、別の扉がありました。
「あなたはどなたですか?」
女王様は警戒します。
「あなたこそ」
女の人はにこにこしたまま質問を返してきます。
「私はある国の女王です」
「なるほどね。見事な王冠とお召し物を着けていらっしゃるものね。でもね、
そんなこと、ここではどうでもいい事よ」
そう言うと、女の人はさっさと自分の扉を開けました。
「私やっと主人に会えるの。じゃあね」
女の人が入った扉はそのまま消えてしまいました。
女王様はまた驚いて、目の前の扉を見つめます。
「開けないの?」
再び声がして、今度は鴇色の服を来た女の人が、女王様を見ています。
「私やっと父様に会えるの。急いでいるから、じゃぁね」
隣の扉が消えました。
女王様は覚悟を決め、そっとノブに手をかけます。
「あら?」
「もしかして開かない?」
三度目に現れた女の人は、黒い服を着ていました。
「ええ。そのようです」
「やっぱり。実はね、あたしもなんだ」
女の人は自分の前のドアノブを、数回捻ってみせました。
「だから待ってるの」
そう言うと、扉の前に腰を下ろしました。
どのくらい経ったでしょう。座っていた女の人のすぐ横に、撫子色のドレスを着た若い女性が並んで座りました。
女の人の瞳が大きく目開かれます。
「こんにちは。お母さん」
撫子色の女性が言います。
「あたしがわかるの?」
「もちろん」
「では、許せないでしょう?」
「私ももう大人です。たくさん学んだよ。だから今ならわかる。お母さんが私の幸せを、いつも願ってくれていたこと」
女の人の目から涙が溢れました。
「だから行こう。一緒に!」
「いいの?」
「当たり前じゃない」
二つの扉が消えました。
女王様はもう一度ノブを動かしてみます。やはり扉は開きませんでした。
「これは女王様ではございませぬか!」
何と言うことでしょう。
次に現れたのは懐かしいお城の召使いでした。
「もしかしたら、私達一人一人をずっと待っていてくださったのですか?」
「え? ええ……まぁ」
「さすがは女王様。でももうお楽になさってください。よろしかったらご一緒に参りましょう」
「いいえ。私はもう少しここにおります」
「なんてお優しいお方。それではお先に」
行きたくても扉が開かないとは言えませんでした。
女王様は生まれて初めて恥ずかしいと思い、寂しいと感じていました。
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