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ある国に、それは賢く美しい女王様がおりました。
女王様はいつも民と家臣を思いやり、誰よりも国の行く末を考えていましたから、国中の者が、女王様を慕っておりました。
けれど。
女王様には王女が一人いたのです。
王女は小さな頃から、母である女王様の言うことを少しも聞こうとしませんでした。
「あなたはなぜ私の言うことを聞かないのです」
「私が何をしても、お母様は一度も褒めてはくださいません」
「それはあなたの学びが足りないからです」
「私は懸命に学びました」
「お母様があなたくらいの時は、もっと学んだものですよ」
「いつも嫌いな色のドレスを着せようとなさいます」
「まだあなたは子供です。何が必要で何が似合うかなど、わかろうはずがありません。あなたのことを一番わかっているのは、このお母様なのです」
「本当にそうでしょうか」
『なんと言うことを……』
家臣達が嘆きます。女王様は言いました。
「あなたもいずれ、母になればわかりましょう」
月日が経ち、王女がお年頃になりました。
国のため、民のため、これだけはどうしても認めさせなければなりません。
「あなたはもう大人です。一刻も早く、隣国の王子と結婚なさい。
それが王女の務めです」
「嫌です。隣国の王子は大酒飲みで、乱暴な方だと聞いています」
「誰にでも欠点はあるものです。しかもそれは噂。真実ではないかもしれません」
「もしも真実であったら?」
「あなたの愛で、優しく包んでおあげなさい。王子には母君がおられない。きっと寂しいのです」
「でも」
「あなたは私の子。お母様にできたことが、あなたにできないはずがありません。まずは会うだけでも良い。この母の顔を立ててはくれませぬか?」
ついにお見合いになりました。
「残念だな。あなたはお母上に少しも似ておられない。でも、あなたの国のお酒は本当に美味しい。あなたの国が、月が変わる毎に私の国にお酒を送ってくださるのなら、喜んで結婚を承諾しましょう」
上機嫌で言う王子に、王女は唇を噛みしめました。
「正直な方ではありませんか。嘘をつかないと言うことは、とても心が綺麗だと言うことなのですよ」
女王様はそう言って微笑みました。
「お母様。やはり私は嫁ぎたくありません。あの方が、お酒以外を大切にするとはとても思えないのです」
「ならばあなたがあの方を教育すれば良い。あなたは私の子。必ず成し遂げられましょう」
「もしも噂が真実であるなら、生まれてくる子供にも、危険が及ぶかもしれません。私はそれが恐ろしい」
「その時はすぐ、我が国に帰っていらっしゃい。大切な私の孫、いつだって助けてあげましょう」
彼女は仕方なく隣国に嫁いでいきました。
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