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第1章
「お疲れ様でした。お先に失礼させていただきます……」
残業で勤務中の方達に頭を下げ、机の上に置いてあった携帯を持ち、勤務している事務所を後にする。普段から主に役職の方だけが残業をしていて、僕は品の発注が滞ってたりしてない限り大体いつも定時退勤。
岐阜県の都会よりの地域。主に焼き物が有名で陶器卸会社が彼方此方にある。僕は地元の高校を卒業したと同時に、工場が隣接した陶磁器製造会社の事務職に就職した。約3年勤め続けてようやくスーツが似合ってきた……かどうかはご想像にお任せして。ここ最近、誰も見てないのは承知の上だけど、地味にネクタイのデザインとかに拘り始め出した。
足元だけに省エネランプの点いた廊下を渡り、2階から階段を降り1階に着いた。
1階には陶磁器販売コーナーとうちの会社の工場で作った陶磁器で食事が摂れ、食べた器も記念のお土産として希望があれば持って帰れるオプションがつくレストランがある。ちなみにオススメメニューは天丼で、並のサイズを頼んでも結構なボリュームがある。実はこのレストランの従業員の中に腐れ縁(?)の知り合いがいる。僕と同じ工業高校出身で入社時同い年という事だけで仲良くなった晃。この会社で唯一遠慮無しに思った事言い合える奴だ。ウェイターとして勤務している晃はカッブルで来た客の男の方に『デブりやがれ』と呪いをかけながら大盛よりヘビーな特盛を笑顔で勧めるらしい。そういえばいつだったかあいつ、レストランか陶磁器販売カウンターのどっちかに可愛い子がいて狙ってるって言ってたな。
この子じゃないといいけど……。
手に持っている携帯を開いて顔に近づけ、液晶画面の中の彼女へ囁く。
「今日も1日おつかれさま……」
と。
今日は出勤してたし、ここの休憩所の自販機コーナーでいつもと変わらずのはちみつレモン飲んでたっけ。
決まった時間にこの場所に現れる彼女。
僕はそれを仕事の用事のついでに何度も1階に足を運びつつチェックして情報を捉えた。気持ち悪がられないように細心の注意を払って。
意中の女の子にどうやって話しかけたらいいのか分かんないから半年経っても遠くからはちみつレモン飲んでる彼女を見てるだけ。
缶の飲み口に唇を当ててるあの子の隠し撮り画像。
でも、こんな画像だって男としては一瞬の隙を捉えた無防備な姿といった堪らない魅力溢れる芸術品だけど、いつか彼女の視線を僕の携帯のレンズに真っ直ぐ向けさせて収めた、ちゃんとした画像を堂々と待ち受けにできる関係になりたい。
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