第2章

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第2章

 さっき席に誘導されたって言ってたけど、どう考えてもおかしい配置だ。  誘導した張本人は皆様の想像通り晃の仕業。  上座側には理人さんと光浦さんが2人仲良く並んで座っている。この2人はこのコンパ会場の確保や参加費の予算設定を受け持って頂いてる。気も合ってるみたいだし、ここは全然文句無い。飲み放題付き宴会コースをグレードの高いものにしてくれてる割に参加費用が男なのに安直(あんちょく)だった。皆が円滑に仕事出来るためだから細かい事は心配しなくていいからと、そんな感じだった。晃は事務所の人間じゃないくせにアザース! って喜んでたけど、幾ら親しくてもそれはいけない事だと思って遠慮したら『遠慮する方が振る舞って頂いてる方に対して失礼だよ雅巳ちゃん』と肩に手を置かれて言われた。まあ、そこは双方の関係とか相手の気持を読み取って対応するって事が大事なのだが。  さすが接客サービス業。しっかり相手を見て先を読んで動いてる。見た目こんないい加減なのに、厨房の光浦さんを始め、皆から好かれてる。僕は例のあの件から警戒してるけど、肩に置かれた晃の手を外して頷くと理人さんは僕に向けてウインクした。  なんせどっからどう接してもバナナオンリーの敦啓君とあんなに仲良く出来るのも尊敬する。  レストラン全体がいい雰囲気なのはこいつの影響だって分かってはいるけど――――      ◆  こんな配置になったのは壁に貼ってあるボスターの光GENJIが原因だった。  何年か前に解散されてるアイドルグループなのだが、解散後の今になっても人気の名残がある。今日の女組メンバーの参加者は偶然にも皆、光GENJIに推しメン……ってファン用語ではそう言うらしいが、それぞれにお気に入りのメンバーがいた。  光浦さんの推しメンは大沢。理人さんの顔が大沢に似てると言った時に顔を赤らめてた彼女の女性らしさが垣間見えた。  敦啓君の同級生の女の子は2人とも諸星が推しメンだった。悪いけど自分が男子だったからジャニーズとかは皆同じ顔の集団だと思ってて、光GENJIは7人いる中で一番目立ってた諸星しか知らなかった。っていうか全部で7人いた事さえ知らなかった。おそらく晃が目を付けてた子は敦啓君の同級生のこの2人のどっちかの子らしい。ターゲットが七星さんじゃなかった事に安心したけど、実は晃は抜け駆けしていた。モーニング儀式で事前に彼女達に好みの芸能人を訊ねていて、光GENJIの事をコソコソ調べまくっていた。2日前に、このコンパは命懸けの戦場とか言ってたし、相当気合入ってると思う。確かに外見の雰囲気は諸星に似てる晃だが、彼女達2人とも自分の両側に座らせやがりました。腹立ってるから2度言うけど両側に女性を配置するとは、誠にけしからんです。喋るとバナナしか言わない敦啓君の事を要監視人物と言ってたけど、真の監視人物はこいつだと思っている。  因みにバナナの敦啓君は僕より2個上の先輩と聞いて驚いた。本来は“さん付け”で呼ぶのが筋だが今更変えて呼ぶのが余所余所しく、今まで通りの呼び方で接する事にした。 「生意気に馴れ馴れしく接してしまい、すみませんでした」  謝罪したら満面の笑顔で、 「よろしくバナナ」    と返ってきた。  この人は相変わらず会話のキャッチボールに変化球投げてくるけど、本性は優しい人だと思った。  正直言うと、この人が来てくれたお陰で僕が変な人だと思われなくて良かったと思った。
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