第1章

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「話は下で聞こうか!!」  理人さん相手によく言えたもんだ。何だお前、って感じで色気ムンムンメデューサが大きな瞳を丸くしていたけれど、そんな事構わず彼のシャツの袖口を引っ張りながら下へと降りていった。  事務所2人も抜けたらヤバくないか? って心配されてたけど「連れションって事にしときましょう!!」って、またもや理人さんに向かって。しかもトイレネタぶち込むとは。言ってしまってから女子かよ……って心の中で突っ込んだ。  1階に降りると、既にあの子の姿は無かった。 「何だよ、お前おかしいぞさっきから。時計ばっか気にしてたり、あのまま上で話しゃあいいのに、オレ引っ張ってわざわざ休憩所まで連れてきたりして。ってかスゲー(ちから)だな。ナヨナヨしてるやつだって思ってたけど、まあ一応これでも男だしなお前も。あービックリしたわ」  外れた袖口のボタンを掛け直しながら若干毒入れて苦笑い中の理人さんに、丁度ここに自販機がある事だし、お詫びとして缶コーヒーを渡した。もしこの人の相手が他の(やつ)だったら完全ブチ切れてた。僕っていう事で謝罪を免除してもらえた。「全然大丈夫、面白かったし気にすんな」って、渡したコーヒーを僕に「まあ飲んで落ち着こうか」と頭の上に置かれた大きな掌で撫でながら返してきたけど、一緒に飲みましょう、と自分の分も買った。  五臓六腑に染み渡るコーヒーの苦い味と香り。違いが分かる男じゃないけど偉そうに感じてみた。  久しぶりに飲んだな。ここの自販機のコーヒー。 「……加藤。まさかここで誰かと待ち合わせでもしてたのか。レストランの晃とか、あいつとは仲良いだろお前」  理人さんの鋭い推測にコーヒーを吹きそうになった。ヒマワリの種を頬張り中のリスの様に口に含んだまま首を横に振って応えたけど、あまりの僕の挙動(キョド)りようの反応を絶対怪しんでいる。そして楽しんでいる。  待ち合わせじゃなくて待ち伏せ。尚更言えない方のやつ。ちなみに“レストランの晃”は僕との待ち合わせは5回中5回遅刻してくる奴。理人さんは何処で情報を得たのか、僕達が仲いい事を知っていた。晃の事を下の名前で呼び捨てで呼んでるって事は理人さんの方こそ仲いいのかと思った。さては晃のやつ、どうもこの人にも特盛勧めたらしい。会社のイケメンNo.1は俺がなる!! とか言ってたし。本当抜け目がない奴だ。 「明後日のここの社員同士の合コンの話だけど――――今朝、晃から誘われてただろ」  理人さんが聞きたかった事はこの事だった。  メンバーは全員名前言われても顔の知らない子も居るし、把握しきれてないけれど、男組は僕と理人さんと晃と晃の居るレストランの厨房でデザートの担当をしている熊本敦啓(くまもとあつひろ)君って人。実際普通に会話を交わした事無いけど、トッピングのバナナとかをつまみ食いして料理長にしょっちゅう叱られてる面白い人らしい。晃が面白いっていうから相当だと思う。計4人。女組は敦啓君の上司の、さっき出た料理長。あと、同じくレストラン厨房で洗い場と仕込みを兼任してる子。敦啓君と出身高校が同じで同級生だった女の子2人。彼女達は陶磁器カウンターの売り子さんをしているらしい。計4人。男女合わせて丁度8人だ。
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