第1章

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 会社内でのコミュニケーションも兼ねて、事務所のやつとレストランの子が繋がれる場を作りたかった。  あの子が雅巳くんを想う気持ちを出来る限り助けてあげたいと純粋に思った。毎日あいつが来るか来ないか確認するように暖簾から顔を出して探してるとこを見てたら応援したくなって。  好きな子の恋愛相談に乗ってるうちに、終いにはその子の上に乗ってましたとかみたいな展開は断じて期待してない。もう既に振られてるんだし。こう見えて意外に紳士なんだわ俺。  まさか俺みたいな男がこんな役回りになってしまうと思わなかったけど、親友の引き立て役になってやると意気込んでみる事にした。      ◆  事務所の雅巳くんの同僚の理人さん主催でコンパを開催して貰える事になった。 『お前が主催したパーティーは如何わしい匂いしかしないからオレがやる』  この男は俺の事どう思ってんのかってクソ腹立って天丼特盛勧めてやったけど、開催会場の確保とか面倒くさい事を率先してやってくれるんならアザース! とお言葉に甘えた。ちなみに理人さんも雅巳くんの萌えとは違った大人セクシーの魅力で女子社員達の憧れの的だったりする。俺の次に。  雅巳くんはしっかり者だけど、恋愛においては超が付く程鈍感だ。女の子を抱きたい気持ちはそんじょそこらにいる男共よりも強そうなのだが、自ら抱きに行こうとする気が無い。食事を済ませると上品にナプキンで口を拭い、2つ折りに捲ってた袖口を元に戻してボタンを掛けて止め直しながら、食器を引きに来たお姉様に『ごちそうさまでした。美味しかったです』と頭を下げてそんだけで終わりという、何とも勿体無い始末。そこで『綺麗な手ですね、まるで白魚』とか『彼氏いるんですか? いますよね絶対』とかダメモトで構わないから何かもう1つくらいアクション起こせよと言いたい。  雅巳くんは俺の親友だし、俺が誘えば100%来ると予想してあの子……厨房に居る七星民(ななほしたみ)ちゃんを先に誘ってみた。昼休みに暖簾から顔を出した瞬間を狙って。  初めは誘ったのが俺だっていうのもあってか秒殺で断られた。理人さんに言われた通りに、どんなパーティだとかどんな店でやるかだとか事細かに警戒しながら聞いてきた。 『好きな人がいるから……』  しまいにはこのワードを出してきた。  っていうか“出してくれた”。  そうなる事を待っていた。 『そいつを呼ぶから来て』  その時の俺の顔は今までで1番かっこいいに違いない顔だったと思う。  民ちゃんは顔を真っ赤にしてOKしてくれた。  不覚にもその場で抱きしめたくなっちゃったけど頑張って我慢した。
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