第1章

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 自分の持ち場に戻っていく民ちゃんに手を振ってたらデザートコーナー方面から殺気の入った視線を感じた。そこにはバナナをピストルの様に構えて銃口(?)を俺に向けてポーズを決めてる“くまモン”が居た。くまモンっていうのは、ご察しの通り厨房の熊本敦啓君の事。ああ見えて、あいつの方が俺より2つ上のパイセンという何とも複雑な関係なのだが、そう呼ばせてもらっている。ただのお調子者のイケメンという俺より遥か上を行く天然の入ったお調子者のイケメン。世界の中心でバナナと叫んでる様なやつだ。  面倒くさいけど仕方無く両手を上げて近寄っていくと、 『勤務中に七星さんナンパ事件発生、勤務中に七星さんナンパ事件発生、勤務中に……』  と大きな声で警報出しやがったくまモンの口を塞ぎながら、ただコンパに誘っただけの事と説明した。自分が誘われなかったから機嫌を損ねたのか、バナナの銃口を俺に向けたまま睨んでいるくまモン。  男組のメンバーはバランス的にこれ以上増やしたくない。ってか、こいつだけは遠慮したい。黙ってろって言っても絶対喋るし、こんなやつがいいっていう女の子果たして居るんか……って、パイセンに向かってよく言えるなって思うかもやけど、俺はこの戦い(コンパ)に命を懸けている。決して妥協はしない。  顔だけイケメンくまモンは岐阜の隠れたイケメンパティシエと(うた)った地方情報誌に載った経歴がある。喋ると主にバナナしか言わないが、黙ってたら絵になる色黒ワイルドフェイス。勿論情報誌に載った事で彼目当てで来る女性客が殺到した。  黙ってればいい。黙ってバナナをひたすら食ってればいい。    くまモンは男女共学の高校卒で元同級生の女の子2人がここの陶磁器販売コーナーの売り子をしている。くまモン曰く一緒にバナナで遊んだ間柄と言ってたけど、男1人と女2人で一緒にバナナで遊んだとか、どう考えても卑猥なプレイしか思い浮かばず聞けなかった。意外にも、その女の子達を誘ってくれると言う奇跡。但し『ぼくをさそう条件で、だからね』って。  今まで生きてきた中で究極の選択だったけど、涙を飲んで彼を誘う事にした。例のバナナで弄ばれた彼女達が実は可愛かったから。朝の俺のおはようパフォーマンスを見て笑顔を送ってくれる彼女達だったから。  二番煎じでもいいから俺もバナナで――――  命懸けの戦いは情けなくも己の性欲に負けた。
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