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十三・女子高生危機一髪!
紀子が退院したのは十月の一週目のことだった。
退院当日、紀子から私宛にメールが届いた。そこには短く、
「来週から学校に行きます。不安もあるけど、それ以上にゆかり達と会えるのがとても楽しみです」
と書かれてあった。
メールで私のことを「ゆかり」と呼んでくれていたことが、私には何よりも嬉しくて、何度もメールを見返した。
月曜日は目覚まし時計のアラームが鳴る前に目が覚めた。こんなことは一年で一度か二度あるかないかの珍事だった。
朝から浮かれ気分の私を気色悪そうに見つめる美樹のことなどお構いなしに彼女よりも先に家を出た。今日ばかりは教室で紀子が登校してくるのを待つ身でいたかった。
うっかりすると宙を舞ってしまうのではないかと思うほど軽やかなステップで駅へ向かい、いつもより何本も早い電車に乗りながら、はやる気持ちを押さえながら窓の外を見ていた。
ふと、もしも紀子が私よりも早く学校へ来ていたら、と無用な心配が頭をよぎった。そしてその心配の種はみるみる大きくなっていって私の中に充満した。
時間的には十分余裕があるはずなのに急に落ち着かない気持ちになり、見えない不安に背中を押されるようにいそいそと学校へ向かった。
学校に着いて上履きに履き替えると、階段を二段抜かしで駆け上がり、息を弾ませながら教室に入った。
真っ先に目に飛び込んできた紀子の席にはまだ本人の姿はなく、いつものように素子とミエと西那須野姉妹が机を取り囲むようにして集まっていた。
クラスメートも紀子が来るのを心待ちにしているのか、心なしかそわそわとしていた。教室に誰かが入ってくる度にみんなの視線が入り口付近に注がれ、紀子でないとわかるとまたそっぽを向くといった光景が何度か繰り返された。
前日のSHRで赤羽は紀子が登校してくること、そして彼女が記憶喪失で入院していたことを伝えていた。
「来週から蓮田が学校に来ることになった。まだ退院して間もないので本人も多少戸惑うこともあるかと思うが、いつも通り普通に接してあげて欲しい」
紀子の病状をみんなに伝えることは彼女からの希望だった。
大切なクラスメートに嘘はつきたくないし、例え黙っていてもいずれはわかってしまうことだから、記憶喪失のことを正直に告白して欲しいと紀子自らから赤羽にお願いしたそうだ。
その話を聞いたとき、クラスのみんなは一様に顔を強張らせた。
「自分が記憶喪失だと言うことは本人が一番よく知っている。だが、新しい記憶はちゃんと残っているそうだから、蓮田のためにみんなで新たな思い出を作ってやってくれ」
そう言って赤羽はみんなの前で頭を下げた。
そして、その時がやって来た。
廊下にいた男子生徒が「久し振りじゃん」と大きな声で紀子に声をかけた。その声に教室内が一斉に緊張と喜びの入り混じった複雑な空気になった。
「おはよう」
少し緊張気味に紀子が教室に入ってくる。
「おはよう」
「ハッスー、おはよー」
近くにいた女子生徒が声をかける。
「ヤッホー! 紀子ちゃ~ん、こっちだよぉ~!」
素子がはしゃぎながら紀子の席を指差す。
紀子は私達の顔を見て安心したのか、顔をほころばせながら自分の席に向かう。
「おはよ~! 紀子ちゃん!」
「ノリ、おはよう」
「おはよう、蓮田さん」
素子が、ミエが、舞依がそれぞれ紀子に声をかける。愛依も声をかけていたようだったが、周囲の声にかき消されていた。
「おはよう。紀子」
今まで何百回も口にした何気ない言葉のはずなのに、この言葉を口にするために私は少しだけ勇気を使った。
紀子は真っ直ぐに私の方を見つめ、決して大きくはないがはっきりとした声で言った。
「おはよう。ゆかり」
教室のざわめきの中で紀子の声だけが私の耳に届いていた。
今まで彼女は何十回、何百回も私の名前を呼んでいたはずだが、この時ほど彼女に名前を呼ばれて嬉しいと思った事はなかった。
うかつにも泣きそうになったが、ここは泣くシチュエーションではない。
笑わなくっちゃ。
私は目を真っ赤にしながら、溢れそうになる涙を必死に堪えて笑顔を作った。きっと薄気味悪い顔になっているに違いない。
それでもいい。紀子が笑ってくれるなら、それでいい。
紀子が席に着くと、みんなが我先にと紀子に話しかけた。
「蓮田さん、ちょっと痩せたんじゃない?」
「そうかなぁ」
「紀子ちゃん、体操着持ってきた? 今日は体育があるんだよ」
「モコ、あんた他人(よそ)のクラスの時間割よく知ってるわね」
「ねぇ、ゆかり。お昼学食でパン買うから後で一緒に行ってくれる?」
「うん。いいよ」
「あれ? いつものコンビニおにぎりとパンじゃないの?」
「今日はコンビニ寄らなかったんだ」
忘れかけていた朝の日常がやっと戻ってきた。こんな緩い朝のひとときがこれからも毎日続くことを心の中で切に願った。
その日の授業はいずれも紀子がいなかった頃におこなわれた内容を復習するというものだった。
後で噂として聞いたのだが、赤羽が他の先生方へ彼女のためにそのような授業をして欲しいとお願いしたらしい。
どの教師も紀子のために作ったプリントを渡して彼女を激励し、クラスメートも誰一人不満を漏らさずに授業に付き合った。
そして今までなら頬杖を突きながら授業を受けていた紀子自身も姿勢を正して一心に教師の言葉に耳を傾け、ノートにペンを走らせて、少しでもみんなに追いつこうと努力していた。
昼休みも紀子が戻ってまたいつもの賑やかさが戻ってきた。今までと違うのは、素子と舞依が会話の中心となり、紀子はもっぱら聞き役に回っていることだった。
それまで定番だった素子のボケと紀子のツッコミという会話も聞いてみたいと思う気持ちもあるが、二人の会話を聞いてにこやかに笑っている紀子を見て、それはそれで良いのかもしれないと自分を納得させた。
楽しそうな紀子の笑顔を見ているだけで私は十分幸せだった。
紀子が退院して最初の日曜日、紀子に誘われたいつものメンバーはアキバに来ていた。
紀子が務めているバイト先に退院後の挨拶をするのと、今後もバイトを続けるかどうかを店長と相談することが目的だった。
「私一人じゃ心細いから、ゆかりも一緒に来て」
最初紀子は自分一人でお店に入ろうとしたのだが急に怖じ気づいたのか、お店の前でそう懇願され、私も二つ返事で了承した。
「ゆかりちゃん、紀子ちゃんを頼んだよ~!」
みんなを外で待たせ、私と紀子はお店の中に入っていった。
バイトを続けることを望んでいる紀子の隣で少しでもサポートしてあげたかった。
店内の非日常的な空間にまだ馴染めずにいた私をよそに紀子は平然としていた。記憶はなくても皮膚感覚的なものが憶えているのかもしれない。
「あ、クミちゃん」
そう言って客の一人が紀子に手を振った。よく見れば、以前紀子と疑似デートしたあのオタク野郎だった。
紀子は彼に向かって反射的に手を挙げ愛想笑いを返してその場を通り過ぎていった。
フロアにいた女の子達も紀子に気付いて小走りに近付いてきた。
「クミちゃん、久し振りぃ~!」
「ごめんなさい。ずっとお休みしてて」
「ううん。もう大丈夫なの?」
ここでも紀子は口数も少なく作り笑いを続けていた。その姿はまるで外国人に英語で話しかけられて取り敢えず笑顔でその場をしのごうとする日本人のようだった。
「病気でもしてたの?」
「うん。まあね」
紀子の病気のことは店長以外には内緒にしているからみんなは知らないはずだが、あまりいつまでもごまかせない。うっかりばれてしまうかも知れないと、私は内心焦っていた。
「やあ、クミちゃん」
絶妙のタイミングで店長らしき男性が現れた。
「じゃあ、こっち来て」
店長が奥の方へ入るようにと手招きをしてくれて私はホッと胸を撫で下ろした。
紀子に続いて私も一緒に中へ入ろうとすると、店長に呼び止められた。
「君誰? 面接希望の子? 今ちょっと忙しいから後にしてくれる?」
「あ、いや、のり……クミの付き添いです」
「私一人だと心許ないんで、付いてきてもらったんです」
紀子がすかさずフォローしてくれた。
「あ、そ。じゃあいいや」
追い払われそうになった私を救ってくれた紀子に感謝しながらお店の裏に回った。
〝STAFF ROOM〟と書かれた事務所兼女の子達の休憩所となっている部屋はきらびやかなフロアからは想像も付かないほど雑然としていた。
ベージュがくすんだような色の薄汚れた壁にかかっているホワイトボードには【出勤】と【休み】と書かれた欄に女の子のマグネットプレートがペタペタと貼ってあり、[クミ]と書かれたプレートが【休み】の筆頭に貼られていた。
「今ならみんなフロアに出ちゃってるから大丈夫だな」
そう言うと店長は換気扇の紐を引っ張り、近くにあった椅子にどっかと腰掛けると懐から煙草を取り出した。そして咥えた煙草に火を点けると、換気扇の方に向かって白い煙を吐き出した。
「クミちゃんがお店に戻ってきてくれるのはとっても嬉しいんだけど、常連客の顔も名前も覚えていないんじゃ、クミちゃん以上にお客の方がショックなんじゃないかなぁ。現に今もみんなのこと憶えてないでしょ?」
いきなり話し出した店長はフロアの方を指差した。
「はい……そうですね」
「クミちゃんもやりづらいと思うよ。また一から覚えなくっちゃいけないしさ、病気のこともみんなに内緒にしないといけないしさ」
気落ちする紀子の顔を見て何とかしてあげたいと思うが、どうすればいいのか思いつきもせずただ頭の中で考えが空回りしている自分に少し苛立った。
「それでもまたお店で働きたいと思うわけ?」
「はい」
「ふうん」
煙草の灰を灰皿に落としながらしばらく虚空を仰いでいた店長が突然膝を叩いた。
「そうだ、こうしよう。クミちゃんはまたお店に戻ってくる。ただしクミちゃんとしてじゃなく、双子の妹のユミちゃんとして。どう?」
店長の意図がわからずキョトンとしている私の横で紀子ははっきりとした声で答えた。
「わかりました」
「顔は同じでも全くの別人なんだから、仕事がわからなくても、みんなの顔を知らなくても問題はないしな。客にもそれで通用するだろう。これって名案だと思わない? ねっ?」
どや顔で紀子を見る店長に彼女は微笑みを返した。
「そうですね」
「よし決まりだ」
店長は吸い終えた煙草を揉み消すと飛び跳ねるように立ち上がった。
「来週と言わず今週からでもいいや。ユミちゃんの入れる日に適当に来てくれて構わないから。名前もユミちゃんじゃなくてもっと別のでもいいよ」
「ユミで良いです」
「あ、そ。じゃあ、よろしく。ユミちゃん」
「はい。よろしくお願いします」
紀子は丁寧に頭を下げた。
「あ、ユミちゃんは新人扱いになるから時給は一〇五〇円になるけど、いいよね?」
そういうことか。
紀子はお店の中でもトップクラスに入るほど時給が高かったと以前聞いたことがあった。
店長が紀子を引き留めたのは彼女への同情などではなく、単純に安く買い叩きたかっただけだったのだ。
「あ、それと」
そう言って店長は急に立ち止まって振り返った。
「ついでに君もここでバイトする? ちょっと地味目だけどメイクすれば何とかなるか」
店長から突然スカウトされて、。引きつるように口角を上げて笑顔を作った。
先ほどの紀子と店長の会話を思い出しながら再び煮え切らない思いがこみ上げてきた私をよそに紀子は清々しい表情でお店を出た。
雑居ビルを出ると、そこにいるはずの素子達の姿が見えなかった。
私達がキョロキョロと辺りを見回していると、ショートメールの着信音がした。
「歩行者天国で痛車ショー見てまーす!」
どうやら一行は移動したらしい。私達は二ブロックほど離れた大通りへと向かった。
片側二車線の道路は普段多くの車が行き交うのだが、日曜の午後だけは車両通行止めとなって歩行者が自由に歩けるようになる。
時折路上パフォーマンスやモデルの撮影会などの企画ものが開催されており、この日は各自自慢の痛車を一堂に会して展示するというイベントがおこなわれていた。
痛車の前で写真を撮る者、お気に入りのアニメキャラがペイントされている車をぐるりとなめ回すように次々と写真に収める者、ペイントされたアニメについて車そっちのけで熱く語り合うガチオタなど、展示会場は一種独特な雰囲気に包まれていた。
アニメには精通していない私にはどれがどれだかサッパリわからない状況で、わちゃわちゃと行き交う人混みの中から素子達の姿を探していた。
「今どこ?」
私からのショートメールに素子からは、
「ゴリラのカレー屋さんの前」
と返ってきた。
アキバでゴリラにもカレーショップにも見覚えのない私には何のヒントにもならなかった。
さっぱりちんぷんかんぷんな私は思わず紀子に聞いてみた。
「この辺にゴリラのカレー屋さんなんてある?」
紀子は少し考えてから、
「さあ……でも、お店に行く途中でゴリラの絵を見かけたような気がする」
と、駅の方を指差した。
私は紀子の言葉を信じて、取り敢えず通りを南下していった。
歩行者天国では若い男女だけではなく、年配の男性や様々な外国人も多く歩いていた。特に外国人は英語や中国語以外にも聞いたことのない言語を話す人達も多く、もはやここが日本なのかと疑わしくなるほどだ。
信号機の消えた大きな交差点を過ぎた辺りで、また素子からショートメールが届いた。
「ゆかりちゃんと紀子ちゃん発見!」
どうやら彼女らはこの近くにいるみたいだが、節穴の私の目ではとうてい見つけることはできなかった。
すると、紀子が私の背中とトントンと叩いた。
「あれ、ゴリラじゃない?」
紀子が指差した先に、中央にデカデカとゴリラのイラストが描かれた黄色い看板が見えた。こんなに目立つ看板なのに全く気が付かなかったのが不思議なくらいだった。
その店の正面に停めてある痛車リムジンの前に素子達が立っていた。
「お~い!」
大きく手を振る素子に私達も大きく手を振り返した。そしてみんなのところへ向かおうと歩調を速めた矢先、私達の背後で悲鳴が聞こえた。
その悲鳴は次々と連なりこだまのように連呼した。
「危ない!」
「逃げろ!」
という大声に振り返ると、一台の乗用車が猛スピードで歩行者天国の道路を爆走していた。車は逃げ惑う人々を次々と容赦なく跳ね、速度を落とすことなくこちらに向かっていた。
「逃げてっ!」
ミエの叫び声が聞こえた。しかし私も紀子も突然の出来事に足がすくみ、身体が固まったように動けなくなっていた。
「あぁ……」
恐怖におののく紀子の横顔が見えた。それを見て私は我に返った。
紀子を助けなきゃ。
紀子を抱きかかえて右に逃げるか左に逃げるか。いや、そんな一か八かみたいな危険な判断はできない。かと言ってこのまま立ちすくんでいたら間違いなく二人とも車に轢かれてしまう。
こんな危機的状況の中で私は、車が私達を避けてどこか明後日の方に飛ばされてしまえと念じた。
私は自分の体力や第六感を信じて自ら逃げることよりも、超能力を信じた。
しかし、車は方向を変えることはなく、真っ直ぐに私達の方に向かって来た。
けたたましいエンジン音がみるみる大きくなり、鉄の塊が襲いかかるように私達に迫った。
「!!」
紀子が私の身体を力強く突き飛ばした。不意に押された私は受け身を取れずにアスファルトの道路にベチャッと顔から倒れ込んだ。
あちこちで「キャー!」という絶叫が聞こえた。
私は倒れた状態で顔だけ起こして紀子の方を見た。
てっきり紀子が車に跳ねられたのだと思った。
しかし私が見たのは、目を閉じ身を屈める彼女の背後で宙を舞う車のボディだった。
車体の底の部分をこちらに見せるようにしながら、まるでスローモーションを見ているように車が左から右へと流れていった。そしてドーンと大きな音とともに着地するとそのまま道路を滑り、ドカンドカンと痛車の行列に突っ込んで止まった。
「ゆかり、大丈夫?」
紀子が覆い被さるようにして私の顔を覗き込んだ。
私は言葉が出ずにただうんうんとうなずいていた。
「紀子ちゃん! ゆかりちゃん!」
素子の声に交じってバタバタと駆け寄る足音が聞こえた。良かった、二人とも無事だったのか。
ところが、私の目に映ったのは素子とミエだけで、舞依と愛依の姿が見えなかった。
「舞依と愛依ちゃんは?」
私は起き上がって、二人の姿を探した。おでこと膝にヒリヒリと痺れるような痛みがあった。見ると左の膝小僧に丸く大きな擦り傷ができていた。手のひらにも血が滲んでいた。
ひっくり返ったカメのように仰向けになった暴走車の周りで車内の運転手を外に出そうと人だかりができていて、その暴走車から間一髪難を逃れたリムジンの影にうずくまる舞依とそれを介抱する愛依の姿が見えた。
それを見て私はすぐに舞依が超能力を使ったのだと察した。
あの車が急に方向転換して、しかも宙を舞うなんて芸当は私一人の超能力では不可能だ。私の他に超能力を使うとしたら舞依しかいない。
ひょっとしたら記憶をなくした紀子が無意識のうちに超能力を使ったという可能性もないわけではないが、確かめる術のない私は否定も肯定もできない。
舞依の姿を見た素子はスマホを取り出すと耳に当てた。
「すぐに迎えに来てください。けが人と具合の悪い人がいます。至急お願いします……えぇ、私は大丈夫」
素子が顔からスマホを離して一分もしないうちに上下黒のスーツに身を包んだ二人のSPが現れた。そして私と舞依を軽々と担ぎ上げると残りのみんなを先導するようにつかつかと歩き出した。
「歩行者天国でしたので近くに車を停められなかったもので」
SPは大きな交差点を曲がり、歩行者天国ではない通常の通りへ出た。
「素子様。お二人は病院へお連れした方がよろしいでしょうか」
「うーん、そうね……」
眉間に皺を寄せて私と舞依の顔色を覗き込む素子に、
「あ、私は全然大丈夫」
と努めて軽い調子で答えた。
多少ヒリヒリはするが、どれも擦り傷程度で病院に搬送されるほど大袈裟なものではない。SPに抱きかかえられているのすら申し訳ない気分だ。
それよりも頭痛の酷かった舞依の方が気になった。
「私も大丈夫。いつもの頭痛だし、さっき薬飲んだから」
顔色は悪いが、喋れる程度まで回復したのならもう大丈夫だろう。
「じゃあ、自宅まで送ろうか? それとも私んちで少し休んでいく?」
「宝積寺さん家に行ってみたい」
屈強なSPの腕の中で舞依が即答した。
街中にパトカーと救急車のサイレンが鳴り響き、スマホを手にした野次馬達が好奇そうな顔で続々と事故現場の方へ向かう中、私達を乗せた車は流れに逆らうようにゆっくりとアキバから遠ざかっていった。
(つづく)
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