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午後の就業中、僕のスマホからプライベート用の着信音が鳴った。画面に母と表示されていた。
「ちっ」
嫌な相手だ。
母と最後い会話したのは、僕の結婚式のときだった。それまでもそれ以降も、用がなければ、母だけでなく父とも口をききたいとも思わない。あの二人には日本語が通じないのだと悟ったのだ。僕が両親を毛嫌いしているのを当人たちもわかっているのか、なにかあれば実家で大学生をしている妹の奈津子が電話してきた。奈津子も両親の融通の利かなさだとか(女の子なんだから一人暮らしはだめだと言って地元の大学しか許可しなかった)、実家暮らしならではの愚痴を吐き出してくるが、その程度のストレスなのだから僕より両親とは相性がいいのだろう。
親と長男の橋渡し的存在の妹ではなく、母から直接の電話に、僕には黒く重い不安が腹にとぐろを巻くような感覚を覚えた。だが、いつまでも画面を見ているわけにもいかない。
受信に切り替える。
「なんだよ」
オフィスにそぐわない荒っぽい声がでた。
「裕司? お父さんが倒れたの。搬入先の先生がすぐに家族を呼べって言ってるのよ」
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