無自覚なうそつき

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 上司に休暇の申請をしようかと思っていたところで、留守番電話になっていた翔子から折り返しの連絡が来た。 「二時間で帰るのは無理だってお義母さんにきっぱり言っておいたわよ。で、とりあえず仕事は一週間離席しても大丈夫にしておいたから」 「だよな。葬儀とか考えるとそのくらいみておいたほうがいいよな」 「細かいことは家に帰ってからということで」  翔子と通話を終え、僕は申請書を手に上司の席へ向かった。  翌朝、僕は父の生存確認を兼ねて空港から妹に連絡を入れた。 「父さんなら、回復したわよ」 「は? いつ?」  奈津子のあっけらかんとした声にイラっとした。 「ゆうべ? 意識も戻らないかもって言われてたのに、みるみる回復して、お母さんにさっそく病院の飯はまずいから何か作ってこいって命令してたわよ。で、母さんのかわりにわたしが付き添っているんだよね」 「だったらゆうべのうちに僕へ電話をよこせばいいじゃないか」 「母さんにそう言ったよ。そうねえ、って言ってたけど、やっぱり放置されたか」  奈津子は軽く笑った。  母も奈津子も、僕や翔子の都合などまったく気にしていないことに悪態をつくと、 「母さんがああいう人だっていうのは兄さんもよくわかっているでしょ」  と、冷めた声で奈津子は返すと、じゃあね、とさっさと切ってしまった。  僕ははあ、とため息を吐いた。 「帰省やめるか」   横で聞いていた翔子に言うと、 「でもねえ、やっぱりこの後悪化して瞳孔なったら、それはそれで嫌じゃない? この際だから帰って、主治医にどういう具合なのかちゃんと聞いて事態を把握したほうがいいわよ」  奈津子に父の容態はどうなのかと尋ねても要領を得なかったことを思い出した僕は、 「そうだよな。またこの距離を移動するのも会社に無理言うのも、嫌だしな」  腹をくくるしかない。  僕は脇に置いたキャリーバッグの取っ手を握りなおした。
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