無自覚なうそつき

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 廊下の途中にある休憩室に座っていると、担当の石垣先生がやってきた。父の病状等の話をさせてほしいから診察室へ来てほしいというので二人で行った。 「デスクの椅子に先生が座るのを待って、僕と翔子は患者用の椅子にそれぞれ腰をおろした。  デスクの前の画面に父のCTスキャンの結果を出した先生は、ひととおりの説明をしてくれた。だが、どこか奥歯にものを挟んだような、という表現がぴったりなものの言い方だった。それは翔子も感じたらしい。納得してすっきりした、という顔ではなかった。 「父は退院後、今までと同じ生活ができますか?」 「まず介助が必要になると思います。そもそも退院となると相当時間がかかると思いますが」 「というと、退院できるかどうかも怪しいってことですか」 「それは一概には、ちょっと」  石垣先生は神妙な顔つきで話をしているが、どことなく落ち着かない様子だった。こうなったらこっちが腹を割るしかない。 「僕らね、仕事を休んできているんですよ。仕事をこの先何日も休んで父の容態が落ち着くかどうかなんて見ていられるほど暇じゃないんですよ。ぶっちゃけ、早くかたをつけたい。そこんとこ、わかってもらえませんかね」  石垣先生の目をじっとのぞき込む。先生も僕も、そのまま目をそらさなかった。沈黙がしばらく続いた。  先生は腕組みをすると、唸った。 「わかりました。点滴をやめましょう。それならできます」 「やめたらどのくらいでわかりますか」 「二日でしょう」 「ではお願いします」
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