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「……びっくりするぐらい釣れてしまった……」
小さなバケツがいっぱいになって、二人は散歩ついでの釣りを切り上げた。
「店に寄って置いてくるよ」
まだ店の裏口から中へヒタキを誘導する。
合い鍵で誰もいない店に上がり込んで、ヒタキをカウンターへ座らせる。
釣りたての魚の下処理を済ませ、店に残す分を冷蔵庫に入れていると奥から物音がした。 住居になっている二階の階段を降りてくる音だ。
「あら、ヒオちゃん。おはよう。昨日の子も、いらっしゃい」
「おはよう、叔母さん。今日は思ったよりも釣れたから置いてくね」
釣った魚を冷蔵と冷凍庫に入れて見せながら、扉を閉める。
叔母はあらあらと微笑んだ。
「ありがとう。帰ってきたら伝えとくわね」
「それと、鍋と材料少し借りた」
「何か作ったの?」
鍋を覗き込んで、叔母は問う。氷魚はお玉で掬った液体を椀に注ぎ、叔母に差し出す。
「潮汁。味見お願い」
「頂きます」
一口椀を啜った叔母の眉が上がる。うん、と頷くのを見て、氷魚はもう一杯潮汁を椀に注ぎ、ヒタキに渡す。
両手で受け取ったヒタキは、じっと椀を覗き見る。
「鰯。ヒタキのおかげでたくさん釣れたから。食える?」
熱そうにしながらも口をつけるのを確認して頷く。氷魚も自分の分を胃に入れ、片付けを済ませる。
「じゃ、ザルと氷借りてくね。また夜に顔出すから」
「はいはい。ありがとね、氷魚ちゃん」
見送る叔母に手を振ると、氷魚はヒタキを伴い店を後にする。
「それ、どうするの……?」
竹で編まれたヒラザルの上には開いた魚が乗っている。
「ベランダに干して保存食にしようと思って」
さっきまで店で塩水に漬けておいたものだ。
そして、別に分けて新聞紙に包み、保冷剤で挟んでビニールに入れたものを腕にもひっさげている。
「こっちのは、帰って冷蔵と冷凍にする分。ちなみに昼も夜も魚だけど……ヒタキは別のものにする?」
氷魚は昼と夜の献立を考えながら、ふと昨夜も魚だったことを思い出した。
苦し紛れに訊ねてはみたものの、氷魚はヒタキについて何も知らない。
何も知らないから、食べられるものもわからない。わからないまま、日を跨いでしまった。
足下から頭まで、ヒタキを凝視する。
昨日の様子と目新しい変化は見られないように思えた。
ヒタキはそんな氷魚の様子を眺めながらただ首を振る。
そうするだろうと、そうするしかないんじゃないかと、氷魚は考えていた。少し目線を上げ、立ち止まる。
日差しは柔らかく、空は青い。
ゆっくりと肺に吸い込んだ息を更に時間をかけて吐き出し、ヒタキに身体を向ける。
「聞いても、いいかな。……ヒタキのこと」
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