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二人はまた海沿いを歩き続ける。時々すれ違う人に挨拶を交わしながら。
氷魚はヒタキの手を引いたまま、のんびりと歩く。
時折、お互いの様子をうかがうように視線を交わしながら。
穏やかな潮風と、さざ波の音や水鳥たちの声に耳を傾けながら。
道は少しずつ上り坂となる。
次第に、隣を歩いていたヒタキの足取りが重くなっていく。
差が、半歩になり、一歩分になった時、氷魚は足を止めた。
「キツかった? 戻ろうか」
ヒタキの顔を覗き込むと、息が上がっている。肩で呼吸しながら、首を横に振る。
ぎゅっと掴んだ指に力が入ったのが分かる。
氷魚は撫でるようにヒタキの背中を軽く叩き、堤防を背にして立たせた。
辺りを軽く見渡した。
「ゆっくり、呼吸して。少し荷物見ててくれる? すぐに戻るから」
持っていた鞄を堤防の縁に置いた。
ヒタキが、顔を上げるよりも素早く氷魚は駆けだす。
呼び止める間も、引き留める間もなく取り残されたヒタキは、辺りをきょろきょろと見渡す。困惑を残しながらも、言われた通りに呼吸を整えた。
海風に髪を靡かせ、少し遠くなった波を眺める。
片方の掌を胸に添え、不思議で堪らないといった表情を浮かべた。
そのまま、胸に置いた手を口と鼻の辺りを覆うように持ってきては、息をつく。
何度も呼吸を繰り返してようやく整い始めた頃、もう一度たっぷりと大きく息を吸い、吐いた。
胸を撫で下ろすように、手は再度胸に添えてゆっくりと、下ろした。
だらりと垂らした手で、もう一度預かった鞄の取っ手を取る。両手でしっかりと握って、氷魚の行った方向に視線を彷徨わせた。
すぐ、と氷魚は言った。が、と。ヒタキは眉を下げ、辺りをもう一度見渡す。
何度も目を泳がせ、ようやく一歩、元来た道を戻りかけた時、道路を挟んだ向かい側から、駆け寄ってくる氷魚の姿があった。
目の前まで来て、今度は氷魚の方が息を切らせている。
ヒタキは思わずしがみつくようにして氷魚に抱きつく。
氷魚は目を丸くして、瞬く。胸元にぎゅっと握りしめられた拳の感触を感じる。それは僅かに震えていた。目を細め、肩口に寄せられたヒタキの頭を撫でた。
「一人にして、ごめん」
少しばかりそうして穏やかに頭をなで続け、気が落ち着くならいいと様子を見守る。が、手を止めて見ても一向に動く気配がない。少し心配になりそっと肩を掴み、身体を離した。緩慢な動きでヒタキは首を持ち上げ、視線を氷魚に合わせた。そんなヒタキの顔色をじっくりと確認する。
もとより透き通りそうに白い肌が、かすかに蒼白んでいるようにも思える。
恐怖なら、和らげたいと手にしていたペットボトルを二本顔の前に下げて見せた。
「まだ冷たいうちに、飲んで」
一本の蓋を軽く開けて差し出した。
ヒタキはゆっくりと瞬いて、手に取る。
昨日教えたように蓋を開けて、口に含んで幾度か喉を鳴らす。
唇を離すと、わずかに眉を顰めて小首を傾げ、ペットボトルの中身を覗き込んだ。
「どうかした?」
「昨日のと、ちがう」
その呟きにがっかりしたような色が含まれていたので、氷魚は「ふはっ」と思わず吹き出した。
「ごめん……! それは、ただの水。昨日のはジュースだったんだ」
蓋を閉めたペットボトルと、預かってもらっていた鞄の取っ手をさりげなくヒタキの手の中から抜き取る。
ヒタキのペットボトルを鞄の中に、もう一本の蓋を開けて、氷魚は自分も口に含む。
鞄を肩に掛け、ペットボトルは手に提げたまま、もう片方の手をヒタキに差し出す。
顔色はずいぶんと和らいでいるように見える。よほど怖い思いをさせたのか、それとも……と、海へと視線を下ろす。小さく尖った無数の波頭が揺らいでいた。
「もう少しだけ、頑張ってくれる?」
空いた両手で氷魚の手をぎゅっと掴んで、ヒタキは頷く。
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