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「平気?」
店を出て、アパートへの帰路で氷魚はヒタキを労りつつ熟視する。
氷魚の問いかけに、ヒタキは首を傾げた。
「なに、が?」
じっとヒタキを見つめる氷魚を、ヒタキも視線を返す。
氷魚は首を横に振った。
「平気ならいいんだ」
歩みを進めようと前に踏み出そうとするが、立ち止まったままのヒタキが袖を引く。
「なにか、ヘンだった?」
不安そうな瞳が氷魚を見上げて問う。
深い海の底が二つ、覗き込んでくるようだった。
その深い哀しみの色に、氷魚は苦しくなる。
氷魚はヒタキの視線を受け止めて、ほんの少し自分のより低い位置にある頭を撫でた。
「ちがうよ。不安にさせたなら、ごめん」
ヒタキはじっと、氷魚を見上げる。
「その……ヒタキは人魚だから、俺たちと同じ物を食べても平気なのかなと思ったんだ。だから、もし気分が悪くなったりしたら言って欲しい」
氷魚が白状する。気がかりになっていた心の内を吐露した。
ヒタキは瞠目し氷魚を見上げた後、ほっと息をつく。
袖を掴んだ手を、氷魚の腕に添える。
「氷魚、だいじょうぶ。だから……」
そう言って微笑むヒタキの頭にもう一度手を置く。
「うん。それならいいんだ。――帰ろう」
腕に添えられたヒタキの手を、頭を撫でた手でそっとほどく。そのままその手を取った。
「うん……!」
こっくりと頷いたヒタキの手を引いて、外灯の少ない海岸沿いの道をゆったりと歩く。
波の音だけが二人を追って来るようだった。
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