第二章 母親から生まれていた時代

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 エントランス入口で塔崎さんは呆然と立ち尽くしていた。  足元に転がった金属バットを手に取り、彼女に手渡す。  目の前に大きなガラス張りの窓があり、その外側に漆黒の宇宙空間が広がっている。  遥か彼方で煌めく星々。  神秘的な漆黒と微かな光をバックに、人工的な白い骨組みが悠然と横切る。その骨組みに『Deo Space Station』とある。  その横にクジラのイラスト。まるでマスコットキャラクターのように、屈託ない笑みを向けている。  こちらの気持ちなど眼中にないようだ。 「クジラ……スペース……ステーション」  廊下で見た肖像画。  そして『クジラ駅』――。  ここがそうだというのか。  学校もはじめからここに?  俺は今まで、宇宙ステーションに閉じ込められていたのか? 「ねえ、はやく叩いてよ」  横で小さく、塔崎さんが言う。 「…………」  何故、学校が宇宙に――?  考える程に泥沼にはまっていく感覚。 「ねえ、はやくさまして。ここは、ここは、ゆめ……なんだから」 「覚めるもんか」  塔崎さんの手をぎゅっと握る。  小刻みに震える小さな手。けれども温もりが伝わってくる現実のもの。 「この温もりが夢なわけないだろ。ここは、ここが、俺と塔崎さんが生きる現実だ」  間もなく横から嗚咽が聞こえ始めた。
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