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エントランス入口で塔崎さんは呆然と立ち尽くしていた。
足元に転がった金属バットを手に取り、彼女に手渡す。
目の前に大きなガラス張りの窓があり、その外側に漆黒の宇宙空間が広がっている。
遥か彼方で煌めく星々。
神秘的な漆黒と微かな光をバックに、人工的な白い骨組みが悠然と横切る。その骨組みに『Deo Space Station』とある。
その横にクジラのイラスト。まるでマスコットキャラクターのように、屈託ない笑みを向けている。
こちらの気持ちなど眼中にないようだ。
「クジラ……スペース……ステーション」
廊下で見た肖像画。
そして『クジラ駅』――。
ここがそうだというのか。
学校もはじめからここに?
俺は今まで、宇宙ステーションに閉じ込められていたのか?
「ねえ、はやく叩いてよ」
横で小さく、塔崎さんが言う。
「…………」
何故、学校が宇宙に――?
考える程に泥沼にはまっていく感覚。
「ねえ、はやくさまして。ここは、ここは、ゆめ……なんだから」
「覚めるもんか」
塔崎さんの手をぎゅっと握る。
小刻みに震える小さな手。けれども温もりが伝わってくる現実のもの。
「この温もりが夢なわけないだろ。ここは、ここが、俺と塔崎さんが生きる現実だ」
間もなく横から嗚咽が聞こえ始めた。
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