第二章 母親から生まれていた時代

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「ゴメンね。もうへいき」  隣で佇んでいた塔崎さんが涙を拭う。 「どうしよっか、この後」 「そうね」と塔崎さん。「ここに来る前に、部屋、あったじゃない?」  もちろん覚えている。  彼女と出会ったラウンジを含む全六部屋。 「実をいうと、人がいないか簡単に見たくらいだから、しっかり調べていないの」 「ならもう少し調べよう。そしてこんな所、早く出よう」  塔崎さんは力強く頷く。そして翻し、先程の通路へ向かう。 「きゃっ」  不意に、小さな悲鳴を上げた。 「いま、廊下の陰に――」  塔崎さんは廊下の角を指差す。その先に、特に不審なものは見られない。 「生存者?」 「ううん、そんなんじゃない」 「じゃあなに?」  しばらく考え込む塔崎さん。そして衝撃的なことを口にする。 「えっとね、が這っていたの」  廊下に戻り、先程との明らかな違和感に背筋がゾクリとする。  先程倒した金属体の残骸がそのまま残されている。片付けた覚えなどないから当然のこと。勿論、奴の体から流れた白い血液もそのままだ。  その白い血液が、残骸を起点に先程の六つの部屋がある方向に向かって続いている。獲物を仕留めた猛獣が貪り、その血の跡が点々と続くかのように。それは警告のように俺たちの行く手を阻もうとしているかに思えた。  白い血液の跡は扉前まで続いている。しかし扉のノブや本体には付着していない。 「ここまで来て、拭いたのかしら?」 「随分頭が良いタコだな」  ふと、頭上から微かに風を感じた。  そこには小さな換気扇が備え付けられている。羽は止まり、汚れが付着している。 「……」 「……」  二人で無言のまま、それを見つめる。
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