第二章 母親から生まれていた時代

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 エントランスに戻り、一階へ移動する。  ここは大きな吹き抜けになっていて階段を通じて一階から三階まで移動できる。  遠い宇宙の果てで煌めく星を見つめて、エントランス中央へ。  そこには大きな筒が設置されていて、その脇に【メインエレベーター】とある。筒にはシャッターがされていて、起動している様子はない。  一階に降り立つとコワーキングスペースがちらほら配置されていて、デスクの上には筆記用具が出しっ放しになっている。コーヒーカップは倒れ中身がノートに染みている。 「みて笹島くん」  彼女が示したのは、クジラ駅の全景を説明したパネルだ。 「『Deo-4』――私達がいるのはここみたい」  これによるとクジラ駅は全部で四つのセクションから成っている。 『Deo-1』は本部。 『Deo-2』から『Deo-4』はそれぞれ小・中・高校があって、それぞれのセクションの一階に潮の道『ブレスロード』が開通していて、四つの道がやがて一つに合わさり地上に繋がっている。  説明によると四つのセクションはそれぞれ独立しているが、それらの間にメインエレベーターを含む合金製の骨格が張り巡らされており、宇宙空間でも離れずに浮遊出来るとある。  それら骨格と各セクション含めて、全体がクジラの姿を模しているのだ。  宇宙空間でのクジラは、地球に背中を向けるような形で浮遊していて、潮を吹くと地球と繋がるようになっている。  パネルを凝視している塔崎さんをそのままに辺りを見回してみると、シャッターが閉められた区画があることに気づく。 【Deo-4 ブレスロード入口】とある。 「ここか」  先程見つけた文献にあった潮の道。クジラから出る地球へ繋がる潮。 『緊急プロトコル発動中――。システムにてマザーカードキーによる認証を実行して下さい』  やはり発動中らしい。そりゃそうだよなと内心で頷く。 「笹島くん」と塔崎さん。「ここは?」  潮の道と現在が緊急プロトコル発動下であることを伝える。  緊急プロトコルを解除するにはマザーカードキーが必要だ。生憎それがどこにあるのかまではわからない。 「ならまずは本部に行ってみる? メインエレベーターで移動できるみたいよ」  駅長がいるとしたらやはり本部だろうか。生死は不明だが。 「メインエレベーターは確か」  先程、シャッターが閉じられていたことを思い出す。 「電源落ちているみたいね。緊急プロトコル発動のせいかしら?」 「可能性はあるね」  いずれにせよ、電源を復旧させることが最優先になりそうだ。 「電源か……」  どこか心当たりはないだろうか。 「あっ――」  塔崎さんが声を上げる。 「私たちが脱出した先にパソコンの部屋あったじゃん! あそこじゃない?」  そこで一旦、コンピュータールームに戻ることになった。  上手くいけばそこで電源復旧の後、メインエレベーターで本部へ……朧気ながら道のりが見えてきて少しホッとする。  上手くいけばの話ではあるけれど。 「ほらほら! 行くよ笹島くん」  それでも塔崎さんは随分と前向きになったようで、既に階段まで移動している。保存食を一つ口に運んで後を追う。水分補給のため近くのウォーターサーバーで喉を潤す。  包装紙と紙コップは近くの机の上に置いておいた。
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